研究実績の概要 |
本年度は、自己相似過程のウェーブレット係数の共分散減衰性評価のうち、スケール変数に関する一般的評価の基礎的考察を行った。これまでの研究期間全体を通じて、スケール変数に関する減衰性評価の大まかな考え方を示しており、具体的な評価としてスケール変数 j=1,2,....の差(スケールラグ)m=|j1 -j2|が m=1,2の時のみを、系統的で無い方法により与えていた。この計算法では mが3以上の減衰性評価を mの関数として一般的に与える事ができない状況であった。その難しさは、共分散をフーリエ逆変換表現した際の、多重解像度解析ウェーブレット関数の生成フィルタの様々なパターンの分数関数を系統的に記述する点にあった。これに対し筆者は、同ウェーブレット関数の表現に現れる有限二項展開をSinやCosの合成関数とした時、その二項展開がフラクショナル指数の指数関数で近似できる事を見出した。指数関数であるから、上記の分数関数はまたフラクショナル指数の指数関数として簡単に再帰的計算ができる。今後は、上記の様々なパターンで現れる指数関数の積の組合わせの一般形を系統的に記述する事ができれば、減衰性評価が完成する事になるので、その一般形の記述および上記の指数関数近似の理論的証明を与える事に鋭意取り組めば良い。 研究期間全体としては、このように目標の共分散減衰性評価がうまく見通せてきたという状況である。このスケール変数に関する評価は、これまで直感的には良く認識されながらも、明確な数学的証明を与える方法が知られていなかった課題であり、ウェーブレット応用に関する当該分野の様々な評価に応用され得る基礎的な成果となる。
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