近年提唱されたκ-統計力学は、通常の統計力学におけるエントロピを実数パラメータ(κ)により拡張したκ-エントロピに基づいた統計力学の拡張版である。一般化エントロピであるκ-エントロピに対する最大原理から得られるκ-指数型分布は、漸近的ベキ性を示す確率分布であり、自然界や理工学分野で良く現れるベキ分布を良く記述する。本研究は、このκ-指数型分布族に対する情報幾何構造の解明を目的とした研究である。 主な成果としては、κ-指数型分布族に対する適切な共役表現を見出すことができ、その表現を利用してκ-指数分布族に対する統計多様体を構成することに成功した。更に、関連する情報幾何構造を特徴付けるκ拡張されたフィッシャー情報計量、κ拡張されたアフィン接続やダイバージェンスなどのアフィン微分幾何学における重要な諸量の表式を具体的に求めることができた。また、それらの幾何学量に基づき、κ-指数型分布族に対する統計多様体における情報幾何構造が、情報幾何学において非常に重要な双対平坦構造であることを示した点である。 κ-指数型分布に関する情報幾何構造を解明する過程で、熱平衡状態に対する熱力学・統計力学において非常に基本的であるマックスウェル関係式や揺動応答(fluctuation-response) 関係が双対平坦である指数型分布族に対するフィッシャー計量の性質から導出できる事実を利用して、上記で得られた双対平坦構造を持つκ-指数型分布における揺動応答関係のκ-拡張版を得ることに成功した。更に、関連するヘッセ構造を調べ、通常の期待値に加え、κ-指数型分布に付随するκ-エスコート分布に関する期待値が重要な役割を果たしていることが判明した。これらの成果をまとめ、学術論文として投稿し掲載された。(Entropy誌掲載論文参照)。
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