本研究は,非正則な場合における有効な逐次推定方式を構築することにある.本年度は,昨年度までと同様に,非正則な場合における,ダイバージェンスに基づいた無情報事前分布に関する研究,および(拡張した)対称な分布に関する研究,切断母数がある指数型分布族の最尤推定に関する研究を行った. ベイズ推測において事前分布の選択問題は重要であり,今日に至るまで多くの議論がなされている.推測に先立って事前に情報が無い場合には,一様分布が無情報事前分布として使われてきたが,これは多くの批判があった.これを,1対1変換に対して不変であるように改良したものがJeffreysの事前分布である.このJeffreysの事前分布は,正則な場合には,事前分布と事後分布の間のカルバック・ライブラーダイバージェンスを最大にするものとしても得られる.従って,事前に情報が無い場合の事前分布として正当化される(Bernardo (1979)).Bernardo (1979)の結果を,非正則な場合に,αダイバージェンスに当てはめた結果が,昨年度から得られている結果である.今年度は多次元の場合にも結果を拡張した.また,Ghosh et al.(2006)等にある正則な場合との比較を昨年度に引き続き行った. また,対称な確率分布を別な意味で拡張するものとして,対数対称分布がある.これは,逆数をとったものが,元々の確率変数と同一の分布に従うものとして定義される.この自然な拡張として,指数対称分布やべき対称分布を定義し,平均,メジアン,モード,分布関数,ハザード関数などの諸性質について調べた. さらに,切断母数がある指数型分布族の最尤推定について,切断母数が既知のときの自然母数の最尤推定量と,切断母数が未知のときの条件付き最尤推定量との漸近展開を計算し,その違いを示した.
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