研究課題/領域番号 |
25400199
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上田 肇一 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (00378960)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 真正粘菌変形体 / 数理モデル / 反応拡散系 |
研究概要 |
生物実験グループと共同研究を実施し、忌避物質が含まれた領域を通過中の真正粘菌に対して時間周期的光刺激を与える実験を行ったところ、10分周期の光刺激の場合に特徴的に、光刺激がない場合と比べて忌避物質の通過時間が短縮されるという興味深い実験結果を得た。従来、光刺激は真正粘菌にとっては忌避的な効果があると考えられていたため、この結果は直観に反する。そこで、従来、真正粘菌のモデルでは考慮されていなかった、「抑制後リバウンド」という弛緩振動子に特徴的にみられる現象に注目することによって、実験で観察された現象の数理機構の解明を試みた。 現象を数理的に解明するためには、粘菌の伸展運動を再現する数理モデルを作成する必要がある。先端部の伸展運動に対してはカルシウムイオン濃度変化を記述する方程式、原形質流動に対してはDarcy則に基づく方程式を採用し、それらを相互作用させた偏微分方程式によるモデルを導出した。 導出した数理モデルを用いて数値実験を行った。光強度と光照射周期をコントロールパラメータとし、光刺激に対する細胞の応答を調べた結果、伸展運動のダイナミクスが示す振動の周波数と光刺激の周波数が近いときに、抑制後リバウンド現象が顕著に観察され、忌避物質が含まれた領域の通過時間が短縮されることが明らかになった。この数値実験結果により、粘菌が光刺激に対して伸展運動を活性化させる仕組みとして細胞先端で起きる化学反応の非線形性が重要な役割を果たしていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、真正粘菌で観察される時間周期運動が情報処理および先端運動において果たす役割を明らかにするために、偏微分方程式による数理モデルの作成と抑制後リバウンドが起きる仕組みの解析を行うことを計画していた。忌避物質の存在領域を通過する際に実際の細胞において観察される定性的な振る舞いを再現する数理モデルを作成することに成功し、さらに光刺激によって伸展速度が上昇する仕組みにおいて抑制後リバウンド効果が本質的であることを示唆する結果を得ることができた。これらは当初予定した結果であり、おおむね順調に研究を推進している。 数値実験により、細胞運動に加えるノイズの振幅により忌避物質の通過速度が大幅に変化することが明らかになった。細胞ダイナミクスの内部ゆらぎが伸展運動の活性化に関わっていることを示唆する、当初予想していなかった結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最短時間で忌避物質の領域を通過する際の光刺激周波数を求める解析手法を開発するために、伸展運動を記述する常微分方程式と保存量に由来する拘束条件を加味した方程式を導出し解析を行う予定である。また、今年度の導出したモデルでは、忌避物質の含まれる領域付近で観察される反射運動や先端の分裂現象などの複雑な振る舞いを再現することができなかった。今後は、原形質の収縮弛緩運動との相互作用を考慮することで、そのような複雑な振る舞いの再現が可能な数理モデルを導出する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験データ処理用の計算機を購入する予定であった。研究費の効率的利用のために、扱うデータ量に応じて適切なメモリ量を決定する計画であったが、計算結果が得られたのが年度末であったため、今年度の購入を断念し来年度に繰り越すことにした。 数値実験のデータ容量が確定したため、適切なメモリ容量を搭載した計算機を購入する。
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