本研究課題では,始めに不変性に基づく分布族を定義し,頑健性等の一般的性質を考察した.その後,特殊ケースとしての星型分布の推定問題に関して前々年度から研究を進めてきたが,本年度は以下に述べるような点でそれをさらに推し進めた. 星型分布の推定においては,密度の等高線の形の推定が最も重要な問題である.前々年度はこの問題が,単位球面上の分布の密度をノンパラメトリックに推定する問題に帰着できるという事実に着目し,それに基づく推定方法を考案してシミュレーションを行なった.それを承けて前年度は,この推定方法の理論的性質を考察し,ハウスドルフ距離の下での強一致性を証明した.しかし前年度までの研究では,星形集合の参照点(位置ベクトル)が未知の場合の扱い,パラメトリックな推定との比較,実データへの適用,という課題が残されていた.本年度はこれらの点を考察した. まず,位置ベクトルが既知(ゼロ)でない場合の扱いは,実データへの適用の際には必ず問題となる.星型分布で通常想定される歪んだ分布の場合には,位置ベクトルを平均ベクトルで推定することはできない.ここでは density generator の単調性を想定し,カーネル推定した多次元密度のモードにより位置ベクトルを推定することとした.次に,パラメトリックな推定との比較については,等高線が三角形と想定される場合に,パラメトリックな“多面体的星形分布”の1つのケースと見なして推定し,我々のノンパラメトリックな推定結果と比較した.最後に,実データへの適用については,日本の市区町村の人口総数と課税対象所得のデータに対して行なった. 星型分布の等高線の形の推定に関する研究をまとめた論文は,査読付き学術雑誌 Communications in Statistics---Theory and Methods に本年度末にアクセプトされた.
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