平成27年度は、まず、昨年度からの継続課題である実際的な非線形モデルに対するカオス尺度による評価を行った。具体的には、多重パイこね変換のカオス尺度による評価についての検証を行った。多重パイこね変換は単位平面上で定義され、初期点は時間発展と共に隣接した左右の無限個の単位平面に拡散していくため、一般的には、多重パイこね変換を作用させる単位平面の個数を限定してしまうとカオスの強度が減少する。そこで、単位平面の個数を限定しても多重パイこね変換のカオスの強度に影響を与えない単位平面の最小個数をカオス尺度を用いて見積もった。また、多重パイこね変換の拡散のバランスがくずれると左右のどちらか一方向に拡散するといった現象が現れるが、カオス尺度がこの現象についても十分に捕らえていることを確認した。 次に、時系列でしか力学系の情報が得られない非線形現象のカオス尺度のよる評価を試みた。具体的には、レーザーカオス光より得られる時系列データのカオス尺度の計算を行った。このレーザーカオス光は安価なTHz波を発生させるために利用されており、発振したレーザー光を分光させ、分光させた光を外部鏡により反射させ戻り光を元のレーザー光に加えるといった仕組みで生成される。このとき、主に、2つのタイプの振動(LFFとRO)が発生する。これらの振動のカオスを定量化することが、レーザーカオス光のカオスの強度を調べることになる。そこで、本研究では、LFFとROの時系列データからカオス尺度を求めることを試みた。その結果、レーザーカオス光のカオスの強度が十分でない場合はノイズを多く含んでいることを確認した。今後は、共同研究者の桒島氏(福井工大)より、更なるサンプルの時系列データの提供を受ける予定であり、レーザーカオス光が十分なカオスの強度を得るための条件を検証したいと考えている。
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