研究課題
本研究では宇宙理論と計算科学、宇宙観測といった三つの研究分野を融合し、理論と観測の融合というキーワードを念頭に、銀河形成の輻射流体モデルの構築に取り組む。そのために、流体力学シミュレーションコードと輻射輸送シミュレーションコードを結合させ、その計算加速装置を搭載した計算機上で効率よく計算を行うことができる高精度輻射流体シミュレーションコードを開発する。そして、銀河形成の理論模型と、銀河の観測データとの詳細な比較を行う。このような理論と観測の相互のフィードバックサイクルを徹底的におこない、銀河形成・進化の標準模型を作り上げる。平成26年度は、銀河形成輻射流体計算コードの開発を進めるとともに、銀河形成シミュレーションに必要となってくる初期条件や、導入する基礎物理過程について詳細に調べ学術論文として発表を行った。銀河に付随するダークマターハローの重力場に捕捉されたバリオンの力学進化を解明することは、銀河の形成・進化を解明する上で最重要課題となっている。銀河内のガスは銀河の重力場内で常時留まっているとは限らず、一定の条件の下に銀河風として、銀河から銀河間空間へ流出し銀河進化及び銀河間空間の進化に大きな影響を与える。特に、本研究では銀河風を駆動する超新星爆発がによって加熱されたバリオンがダークマターハローへ及ぼす影響を詳細に調べた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では流体力学計算と輻射輸送計算を完全に統合した自己矛盾のない銀河形成の輻射流体模型を世界で初めて構築することを目指している。その為の輻射流体力学コードとしては、 輻射輸送計算パートでは、各場所における輻射強度を求めるのみならず輻射の方向(運動量空間)も自由度に含めなければならないため、6次元位相空間での輸送方程式を解くという大規模な計算につながり、非常にチャレンジングな問題となる。そのため、これを高速でかつ精度よく解くスキームと、それを実行するための高速な計算機への実装が鍵となる。まずは制限つきの拡散近似を用いた輻射流体コードの実装は終了し、その適応範囲を検討する段階に至っている。今後は、筑波大で開発された輻射輸送計算の高速解法であり、空間格子点上の各点から各点への輻射伝播をすべて計算するAccelerated Ray Tracing (ART)法の採用に取りかかる。ART法はすでに多くの研究実績がある方法であり、実装もそれほど困難ではない。一方、銀河形成の物理部分の研究としては銀河風とダークマターハローに関する学術論文を発表し、国内外の会議報告も行ってきており順調に研究を達成できていると考えている。
輻射流体力学コードの開発については、これまでに作成した拡散近似解法を用いた輻射輸送計算部分の改良とART法との詳細な比較を行う予定である。計算コストの面で優れる拡散近似解法が有効なケースを詳細に見極めたうえで、ART法のような直接解法を導入するケースを上手く切り分ける方法を検討する。一方、銀河形成・進化の基礎物理部分の研究では、これまでの研究を発展させてダークマターハローとバリオンの関係を詳細に調べていく必要がある。特に理論モデルから予想される、ガスの密度、温度、重元素量からの放射を計算し、その原始銀河形成時のSEDを求める。そして銀河風として原始銀河から流出する複雑なガスの流れとライマンアルファエミッターの形態との比較を行う。すばる望遠鏡でHyper Suprime-Cam等の観測データを用いて、銀河風放出候補天体と理論モデルとの相互の比較を行っていく予定である。さらに、シミュレーションで得られる星の質量と年齢、重元素量から星の種族合成理論を利用して星からの放射を計算し、そのSEDを求める。理論的に得られた星からの連続光とライマンアルファ輝線から理論的な輝線等価幅を算出し、実際の観測データとの直接比較を行う。これによりLAEのライマンアルファ輝線の大きな等価幅と銀河進化の関係を突き止める。
大規模シミュレーションによるデータ解析用計算機を購入予定であったが、現行の計算規模では既存の計算機で可能な範囲であったため、来年度購入に見送った。
平成27年度は、大規模計算シミュレーションデータを大量に保存する必要が出てくるため、そのための記憶装置と解析装置を購入予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 9件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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