研究課題/領域番号 |
25400222
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森 正夫 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (10338585)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 理論天文学 / 銀河形成 |
研究実績の概要 |
本研究では“高赤方偏移で発見されている様々な銀河天体が、近傍宇宙のハッブル系列を構成する銀河の進化経路の一側面を見ているに過ぎない”という仮説を掲げ、理論・観測両方の観点からこの仮説を検証する。その為に輻射輸送計算を取り入れた銀河形成・進化シミュレーションを高速に実行するシミュレーションコードを開発し、それを駆使した銀河形成の輻射流体モデルを構築する。そして可視・近赤外線、中間・遠赤外線、サブミリ波、電波、X線等の多波長観測と理論研究との間の相互のフィードバックサイクルをおこない、多様な銀河宇宙を解読するための銀河系統樹を構築することを目指す。 平成27年度は、銀河形成輻射流体コードの開発を継続するとともに、大規模シミュレーションを行うために必要な初期条件としてのダークマターハローの性質について解析を行った。特に超新星爆発によるフィードバックよって発生したガスの大規模な運動による重力ポテンシャルの揺動が、どのようにダークマターハローの力学構造に影響するかを詳細に調べた。また、銀河の長い進化の過程で構成風として発生するガスが銀河の中でどのように蓄積され、やがて新しい星を形成する過程を放射冷却とType Ia型超新星による加熱を考慮して解析した。本研究の一部を構成する遷音速銀河風の解析結果を学術論文としてまとめ、投降した。さらに、銀河の形成・進化の過程で最も重要となる、矮小銀河の衝突・合体過程を近傍の銀河の観測データと大自由度の数値シミュレーションとを詳細に比較することで、その物理過程や銀河衝突が母銀河に与える影響を調べ、学術論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、“高赤方偏移で発見されている様々な銀河天体が、近傍宇宙のハッブル系列を構成する銀河の進化経路の一側面を見ているに過ぎない”という作業仮説を掲げ、銀河輻射流体モデルという武器を駆使して、銀河の発生について詳細な理論模型を構築することでこの仮説を検証する。 これまでの研究で、銀河に付随するダークマターハローの内部構造や、それらの作る重力ポテンシャル中でのガスの動的振る舞い、そして銀河進化の物理過程について多くの知見を積み上げることに成功している。その結果を学術論文としてまとめ、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society誌に2編、Astrophysical Journal誌に1編を現在投稿中である。また日本天文学会や国内の研究会、国際会議でもその成果を多数発表しており着実に研究成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ガスの流体力学的振る舞いと輻射輸送を結合した具体的なシミュレーションを行っていく予定である。特に、ガスの密度、温度、重元素量からの放射を計算し、その原始銀河形成時のSED を求める。そして銀河風として原始銀河から流出する複雑なガスの流れとライマンアルファエミッターの形態との比較を行ったり、ライマンアルファブロッブ に代表されるような銀河風放出の候補天体と、我々のモデルとの詳細な検討作業を行っていく予定である。また、シミュレーションで得られる星の質量と年齢、重元素量から星の種族合成理論を利用して星からの放射を計算し、その波長ごとのエネルギー分布を求める。理論的に得られた星からの連続光とライマンアルファ輝線から理論的な輝線等価幅を算出し、実際の観測データとの直接比較を行う。これによりライマンアルファエミッターのライマンアルファ輝線の大きな等価幅と銀河進化の関係を突き止めることができると予想できる。そして、銀河風のような質量放出過程とライマンアルファ輝線放射のメカニズムについて詳細に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際共同研究として約1ヶ月程度、カリフォルニア大学及びミュンヘン大学等を訪問する予定であったが、十分な時間が取れず延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、アメリカ合衆国、ヨーロッパの各研究機関を訪問し、これまでの研究成果の報告及び共同研究の打ち合わせを比較的長期に渡って行う計画である。
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