研究課題
本研究の目的は、分子雲クランプ内部でどのように星団形成が起きるのかミリ波サブミリ波帯のスペクトル線観測によって明らかにすることである。星団形成領域である分子雲クランプG34.43+00.24 MM3に対し、ALMA望遠鏡を用いCH3OHメーザーの観測を行った。観測の結果、原始星から吹き出した分子流と周囲の冷たいガスが衝突した領域でCH3OHメーザーが励起されていることがわかった。このようにCH3OHメーザーと周囲のガスとの関係を観測的に明確に明らかにすることができたのは、この結果が初めてである。さらに、衝撃波をよくトレースするSiO輝線が検出されないメーザー源もあることがわかった。このことは、CH3OHメーザーが弱い衝撃波、もしくは古い衝撃波もトレースする可能性を示唆している。CH3OHメーザーが分子雲クランプ内での星形成活動を理解する上で重要な指標になることを示した。また、これまでの野辺山45m望遠鏡による観測から、G34.43+00.24 MM3では、DNC/HNC比が他天体に比べ有意に低いことがわかっていた。G34.43+00.24 MM3に対する、ALMA望遠鏡を用いたDNC、HN13C輝線の観測結果について解析を行った。その結果、ALMA望遠鏡による高分解能観測では、分子雲内部にDNC/HNC比が高い領域が存在することがわかった。これは、ALMA望遠鏡では、分子雲内部の高密度かつ重水素濃縮度の高い領域のみを観測しており、一方、野辺山45m望遠鏡では密度の低い広がった成分を主に観測しているためと考えられる。さらに、原始星近傍の温度の高い領域で、DNC/HNC比が高いこともわかった。このことは、DNC/HNC比が、星形成による温度上昇によってすぐに減少せず、星形成前の低温期のDNC/HNC比を保持しているためと考えられる。DNC/HNC比が分子雲クランプ内部でのコア形成過程を理解するために重要な指標となることを観測的に示すことができ、今後につながる重要な結果である。
2: おおむね順調に進展している
研究実績に示したように、星団形成領域であるG34.43+00.24に対するALMA望遠鏡の観測から、星団形成に関する重要な知見を得た。特に、星団形成領域におけるDNC/HNCの振る舞いについて明らかにすることができた点は、今後にもつながる大きな進展であった。さらに、野辺山45m望遠鏡70 GHz帯を用いた、DCO+/HCO+輝線のサーベイ観測も行っており、現在、結果をまとめているところである。研究は、おおむね順調に進展していると考えている。
これまでの観測から、DNC/HNC比の星団形成領域における振る舞いについて理解することができた。今後は、DNC/HNC比を用い、大質量星形成を伴う別の分子雲クランプ内部でのコア形成過程について、電波干渉計を用い観測的に明らかにする。さらに、DCO+/HCO+比の振る舞いについても、野辺山45m望遠鏡の観測結果をモデル計算の結果と比較することで調べる。DNC/HNC比とDCO+/HCO+比を比較することで、イオン分子と中性分子の重水素濃縮度の違いも明らかにする。これらの結果をもとに、星団形成の多様性について観測的に明らかにする。
国外研究会への参加旅費を別経費から出すことが可能になったため、その分を次年度にまわすことにした。
次年度使用可能額は、759,448円である。日本天文学会への参加旅費として5万円使用し、国外研究会参加費として30万円使用する。論文の掲載料として20万円使用する。その他、209,448円は、野辺山45m受信機の性能向上に必要なコネクタや導波管などの消耗品購入にあてる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件)
The Astrophysical Journal
巻: 803 ページ: id. 70
10.1088/0004-637X/803/2/70
The Astrophysical Journal Letters
巻: 794 ページ: id. L10
10.1088/2041-8205/794/1/L10