研究課題
基盤研究(C)
本研究は、「すざく」衛星のアーカイブデータによる(a)銀河団の硬X線放射や(b)ガスバルク運動の解析に加えて、ASTRO-H衛星の超高分解能X線カロリメータを利用して銀河団中のガス乱流測定を初めて実現し、これらをもとに銀河団形成におけるエネルギー収支問題の解明を目指している。(a)について、アーベルカタログの中で最も温度が高いAbell2163銀河団の「すざく」とXMM-Newton衛星による広帯域X線スペクトルの解析結果を、査読つき論文として発表した。この論文では、XMM-Newton衛星データから構築した多温度モデルを用いると、「すざく」で観測された硬X線放射は数億度の極めて温度の高いガス成分を含む熱的放射で再現できること、一方で、非熱的放射は顕著でないことを高い精度で示した。この結果をRXTE, BeppoSAX, INTEGRAL, Swift, 「すざく」衛星で観測された計12個の天体と比較し、現状の非熱的X線放射の測定結果のまとめを行った。さらに、同様の解析手法を用いて、4つの衝突銀河団の硬X線スペクトルの解析を行ったところ、これまでの結果と合わせた6天体について共通に、硬X線データは多温度モデルでよく説明でき、非熱的放射は弱いことが確かめられた。以上の成果をもとに、国際会議で招待講演を行った。(b)について、8個の近傍銀河団について「すざく」衛星の鉄輝線スペクトルのドップラーシフトの解析からガスバルク運動の探査を行った。その結果、新しく3天体についてガス運動の兆候を見つけ、国際会議で発表するとともに学術雑誌へ査読つき論文 2編を投稿し、うち1編が出版済みである。
2: おおむね順調に進展している
今年度の主な計画は「すざく」衛星のアーカイブデータを利用して、明るい銀河団のX線線広帯域スペクトルの解析を行いサンプル数を増やすことであった。実際に、多温度モデル解析から6天体について硬X線放射の起源に制限を得ることができた。これに加えて、ガス運動探査も系統的に進め新しい結果を得ることができた。そのため、研究は順調に進展しているといえる。
「すざく」衛星のデータ解析結果から、銀河団ガスの熱的エネルギーや非熱的高エネルギー粒子の存在を定量的に評価する。得られた結果を投稿論文にまとめる。さらに、乱流測定に備えてASTRO-H衛星の観測シミュレーションを行い、銀河団マッピングによるガス運動測定の戦略をたてる。ASTRO-H 衛星のX線マイクロカロリメータは約5eV という高いエネルギー分解能を実現し、鉄輝線のドップラー分光から、初めて本格的な銀河団ガスの速度マップを得ることが期待される。より具体的には 、鉄輝線スペクトルを、銀河団ガスからの熱的放射にドップラー効果による輝線シフトやブロードニングを加味したモデルで評価し、運動速度を求めることになる。ただしX線カロリメータの視野は3分角と比較的小さいた め、一般に数Mpc の広がりを持つ銀河団のマッピングには長い観測時間を要する。従って、現実的な積分時間で乱流測定を実現するため、天体や観測領域の綿密な検討を行う計画である。
物品購入の端数で残額が生じたため。翌年度分として請求した助成金と合わせて、物品購入に充てる予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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