研究課題
本研究は、「すざく」衛星による(a)銀河団の超高温ガス・非熱的ガスの探査やバルク運動の解析に加えて、(b)ASTRO-H衛星の超高分解能X線カロリメータを利用して銀河団中のガス乱流測定を初めて実現し、これらをもとに銀河団形成におけるエネルギー収支問題の解明を目指している。(a)について、新たに「すざく」衛星で取得した2つの衝突銀河団A2255, A2744のX線分光データの解析を行った。衝突合体によって形成されたと考えられる電波レリックの領域に注目してガス温度分布を求め、衝突のマッハ数を推定した。その結果、A2255については顕著な温度構造は見られなかった一方、A2744銀河団の北東部には数億度の超高温ガスがありガス温度が不連続な分布を持つことを検出した。X線観測から見積もられるマッハ数は電波観測の値とも一致し、銀河団外縁部における衝撃波加熱が起きたと解釈できる。この成果をシンポジウムで発表した。(b)については、宇宙論的数値計算により作成された銀河団サンプルを利用して、ASTRO-H衛星X線カロリメータ検出器の銀河団分光観測シミュレーションを行った。実際の観測で予想される分光測定の系統誤差を定量的にに検討した。規則型銀河団であっても数100km/sのガスの乱流やバルク運動が存在し、その大きさは同一天体中でも方位角方向によって異なるため、複数領域の観測を行うことが系統誤差をおさえるうえで重要となることを示した。また乱流による非熱的圧力を考慮することで、銀河団質量を数%の精度で再現できる可能性を示した。この結果をふまえて、ASTRO-Hプロジェクトや期待される銀河団観測成果について国際会議で招待講演を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、「すざく」衛星のデータ解析から、銀河団ガスの熱的エネルギーや非熱的高エネルギー粒子の存在を定量的に評価することであった。実際に、2つの衝突銀河団についてガス温度分布の解析を行い、超高温ガスの検出や衝突のマッハ数の推定を行い考察を進めることができた。また、ASTRO-H観測シミュレーションに基づいて観測戦略を検討した。そのため、研究は順調に進展しているといえる。
これまでに得た「すざく」衛星による銀河団の衝突合体現象やガスの運動に関する観測結果を、他のX線衛星や電波観測と比較し、銀河団の形成進化について考察をまとめ、投稿論文を執筆する。また、ASTRO-H衛星によるガス乱流測定については、今後、観測シミュレーションのサンプル数を増やすことで、より系統的に銀河団質量の再構築方法を検討をすすめ、研究成果を公表する計画である。
物品購入において残額が生じたため。
翌年度分として請求した助成金と合わせて、物品購入に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 66 ページ: id. 99 14pp
10.1093/pasj/psu075
Proceedings of the SPIE
巻: 9144 ページ: id. 91442A
10.1117/12.2057199
巻: 9144 ページ: id. 914425
10.1117/12.2055681