研究課題/領域番号 |
25400232
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
町田 正博 九州大学, 理学研究院, 准教授 (10402786)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 星形成 / 原始惑星系円盤 / 磁気流体力学 / 原始星ジェット / 惑星形成 |
研究実績の概要 |
星は分子雲コアが重力収縮して誕生する。初期の重力収縮の過程では、ダストからの熱放射により内部エネルギーがガス雲から抜けるためにガスはほぼ等温で収縮する。その後、密度が高くなるとダスト冷却が効率的でなくなり、ガスが断熱的に振るまいファーストコアという一時的な天体が形成する。ファーストコアは質量降着により質量を増加させ、中心の温度が2000Kを超えると水素分子が解離し、その吸熱反応によって再収縮する。中心部分の水素分子が水素原子に変わり、再びガスが断熱的になると重力収縮は止まり原始星が誕生する。原始星はファーストコアの中心部の一部のみが重力崩壊して誕生するため、ファーストコアの大部分は原始星周囲に残っている。このファーストコア残骸は回転によって支えられており最終的には星周円盤へと進化する。原始星誕生直後は、原始星とファーストコア残骸、または初期星周円盤の質量がほぼ等しいため、星周円盤自身の重力が無視できず重力的に不安定になり、円盤中で渦状腕が発達すると理論的に予想されていた。 2016年ALMAの観測によって重力不安定によって生じたと考えられる円盤が原始星周囲で見つかった。このALMAによる観測と我々のシミュレーションを比較したところ両者の特徴は非常によく一致することが分かった。また、渦状腕が発達するためには円盤が重力不安定を引き起こすほど重く、不安定である必要があるが、渦状腕が発達した後は、渦状腕の重力トルクによる角運動量輸送のためにガスが中心星に落下しており、すでに円盤はある程度重力的に安定な状態になっていることが分かった。これは、原始星から現れるアウトフローやジェットの他に円盤の渦状腕による重力トルクによる角運動量輸送も星形成過程で重要であることを意味している。これらの結果によって、我々の構築した星形成シナリオが妥当であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究業績の概要での研究は既に査読誌に出版済みである。また、ALMA望遠鏡の観測結果と理論の比較、星形成解析モデルの構築の研究も査読論文として2016年度に出版済みである。ALMA望遠鏡の観測との比較の論文では、ALMA望遠鏡で得られた原始星のごく近傍の複雑な構造を数値シミュレーションで再現することで、その成因を解明した。ALMA望遠鏡によって、原始星の周りにクランプとアーク状の構造が発見された。これらは、星形成コアの磁場が弱い場合に起こる分裂や連星形成の途中の過程であると考え、数値シミュレーションを実行した。その結果、ALMA望遠鏡で観測されたクランプは円盤分裂により形成し、その分裂片の運動によってアーク構造が誕生することが分かった。 また、理論の解析モデルは、近年の様々な観測から分かっている星形成コアの比角運動量の分布を解析的に再現することを目的として研究を行った。最初に数値シミュレーションを実行し、その結果を用いて星形成過程での角運動量の空間分布の解析的なモデルを構築した。構築したモデルと観測を比較することで星形成の段階や状態を同定出来ることを示した。観測から星周円盤の外側のスモールスケールでは、比角運動量の空間分布がほぼ一定、つまり距離の0乗になることが分かっている。従来はこれは角運動量保存の結果であると考えられていた。この研究では、この比角運動量の分布は、角運動量保存の結果ではなく、重力収縮の結果、初期にほぼ一定の角運動量を持つ流体要素が収縮にしたがって引き伸ばされて空間的に一様になることを導いた。この結果は原始星の進化段階を理解するために重要である。 さらに、大質量や中質量星からのアウトフローに関する研究を行い、現在査読誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、大質量星形成過程でのアウトフローについての論文を査読誌に投稿中である。この研究では、低質量星ではなく中、大質量星形成領域で観測される大質量アウトフローの原因を解明するために、3次元非理想磁気流体シミュレーションを用いて中、大質量星形成の形成と進化の計算を行った。小質量星と大質量星の形成の違いは、星の誕生の母体である分子雲コアにあると考えられている。大質量星が誕生する分子雲は小質量星より重く、重力的に不安定であると考えられている。一般的な分子雲コアよりも重いために星になる材料が多く存在し、大質量星が誕生する。また、星形成コアは重力的に不安定であるため中心領域への質量降着率が高くなり、大質量星が誕生しやすくなる。しかし、質量降着率が高い場合、最初に出来た星の周りの円盤が重力的に不安定になり分裂を繰り返し多重星を形成しやすくなる。多重星や星団が出来る場合、単一の大質量の星が誕生するのは困難である。我々は、磁場が多重分裂を抑制し、角運動量をアウトフローによって星間空間に輸送することが大質量星形成の本質であると考え、磁場が強く、重力的に不安定な星形成コアの進化の計算を行った。 計算の結果、初期に重力的に不安定で質量降着率が高い場合でも磁場によって角運動量が輸送されて多重分裂を抑制することが分かった。また、その副作用として余剰の角運動量がアウトフローとして星間空間に放出することを示し、このアウトフローの物理的特徴は観測されている大質量アウトフローとよく一致することを示した。現在、この結果は論文として執筆済みで、査読誌に投稿中である。 また、この大質量星からのアウトフローの研究のさらなる発展として、中心星の光度を計算し、計算された中心星光度とアウトフローの特徴を観測と比較することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度に行った大質量星からのアウトフローの論文「Massive Outflows Driven by Magnetic Effects in Star Forming Clouds with High Mass Accretion Rates (Yuko Matsushita, Masahiro N. Machida, Yuya Sakurai and Takashi Hosokawa)」が現在査読誌に投稿中であり、受理後出版費を支払うために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の論文が受理次第出版費として使用する。また、2016年度に行った「Massive Outflows Driven by Magnetic Effects in Star Forming Clouds with High Mass Accretion Rates」の研究内容の国際会議での発表を予定しているため、国際会議参加の旅費として使用する。
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