研究実績の概要 |
本研究では、全年度まで、超金属欠乏星の漸近漸近巨(AGB)星段階でのs(low)-中性子捕獲過程について理論的な研究をしてきたが、本年度は、その結果に基づき、銀河系ハローの金属欠乏星、とりわけ、炭素過剰(CEMP)星から観測される中性子捕獲元素の含有量、分布の違いから、これらのCEMP星の起源を議論した。 CEMP 星は、s-過程元素、Sr, Ba, Pb、並びに、r(apid)-過程元素と分類される Eu の分布に多様な分散を示すことが観測され、それに応じて、種々に類別されている。Ba に富んだ CEMP-s 星とBaの組成が炭素過剰を示さない普通の恒星と変わらない CEMP-no 星、また、r-過程元素に富んだ CEMP-r 星と通常の CEMP-s 星に比して、Eu/Ba の組成比が太陽などのs-過程元素の分布と比べて大きい CEMP-r/s 星に分類される。これらの種別について、連星系で、低・中質量の主星が AGB 星段階段階で炭素星に進化した後外層を放出するときの恒星風からの物質降着によって伴星が表面汚染を受けるという描像で、統一的に解釈できることを示した。表面組成の多様性は、AGB 星の質量による s-過程元素合成過程の効率、連星系での質量降着率、および、恒星のr-過程元素の初期組成の違いによって説明される。この結果からは、銀河系ハローで観測される低質量星は連星系の伴星として誕生、また、鉄組成が太陽の数千分の1付近で、初期質量関数と連星系の性質に変遷が見られるなどの、宇宙初期における星形成および銀河系の構造形成過程への知見が導かれる。とりわけ、CEMP 星の中に、炭素星過多の超新星爆発の兆候は認められないことを示し、宇宙最初の超新星爆発の探査には更なる工夫が必要であることを示唆する。これらの結果は論文を投稿予定である(Yamada et al. 2016)。
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