研究課題
天文学の重要な目的の一つは、星、銀河や銀河群、銀河団の形成、進化を調べることである。銀河団は、重力的に束縛されたものとしては宇宙で最大の構造であり、冷たい暗黒物質の重力により形成される。銀河団では、バリオンのほとんどは数千万度の高温ガス(銀河団ガス)として、銀河団を満たしている。日本のすざく衛星により、銀河団外縁部からの銀河団ガスの放射を検出することが可能になった。銀河団中の重元素の総量は、過去の星形成史の良い指標となる。ところが、小規模な銀河団や銀河群では、銀河団ガス中の鉄の量と星の光度の比が銀河団よりも小さいという問題があった。また、一部の小規模銀河団では、ガスに含まれる鉄の割合(組成比)が極めて低いという報告があった。我々は、長時間の観測データを系統誤差も含め解析することにより、実際はガスに含まれる鉄の組成は、小規模銀河団や銀河群でも、巨大銀河団に近いことを発見した。これらの結果から、おそらくは銀河形成時期に近い時期に銀河群や銀河団では大量に鉄を合成してきたと議論した。すざく衛星により観測された銀河団外縁部の銀河団ガスのエントロピーが理論予想よりも低いことが問題になっていた。我々は、重力レンズの観測と比較することにより、銀河団ガスが銀河団外縁部で予想よりも熱化していないと結論した。さらに、エントロピー異常として提案されていた銀河団外縁部のガス塊について、探査を行い、かみのけ座銀河団では、重力レンズにより発見された暗黒物質塊に付随するガス塊を発見し、エントロピー異常への影響を評価した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、銀河団全体のエントロピーや鉄の量を理論予測と比較する計画であった。複数の銀河団について、解析がほぼまとまりつつあり、一部はすでに論文として出版または投稿中である。銀河団外縁部のガス塊探査も計画の一部であった。かみのけ座銀河団のガス塊については、論文としてすでに出版が決定している。さらに、複数の銀河団のガス塊候補についてスペクトル探査などを用いて探査を行った。結果はほぼまとまっており、現在論文としてまとめるため、詳細を詰めているところである。
ASTRO-H衛星のデータを主に解析する計画であったが、データを手にするのは年度末になりそうである。それまではすざく衛星や他の現在活躍中のX線天文衛星のデータを用いて解析を続ける予定である。銀河団外縁部の温度、密度をプランク衛星による逆コンプトン放射の観測結果と比較することを計画している。X線は密度の2乗に比例するのに対し、逆コンプトン放射は、ガスの圧力に比例するために、X線観測と逆コンプトン放射の観測は相補的であり、特に温度、密度の一様性を評価することができる。巨大銀河団から銀河群まで、銀河団の鉄の量を求め、銀河の光度を比較することも計画している。10個程度の銀河団について評価し、系統的な議論を行いたい。
平成26年度は、海外旅費として使用予定だった金額を大学からの補助がでたため、使用しなかった。
平成27年度の海外旅費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
The Astrophysical Journal
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