研究課題/領域番号 |
25400248
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川崎 雅裕 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (50202031)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インフレーション宇宙 / アクシオン / 暗黒物質 / 密度揺らぎ |
研究概要 |
素粒子の強い相互作用におけるCPの破れの問題を解決するアクシオン模型にについて、その宇宙論的な問題に関する研究を行った。アクシオン模型にはドメイン・ウォール問題と等曲率揺らぎの問題という2つの宇宙論的な問題が存在するが、インフレーション中にアクシオンを含むPeccei-Quinn(PQ)場が、大きな期待値を持つ場合は、有効的なPQスケールが大きくなることによってアクシオンの等曲率揺らぎを抑制されることが知られている。しかし、この場合、インフレーション後のPQ場の振動によって揺らぎが生成されPQ対称性が回復し、ドメイン・ウォールが作られる可能性がある。そこで、格子計算を用いてPQ場の発展を数値的に解析し、揺らぎが抑制される条件を明らかにし、宇宙論的問題が無いアクシオン模型を構築した。。 また、インフレーション後の再加熱温度が非常に低い場合の暗黒物質の生成に関して,インフラトンの崩壊によって生じる高エネルギー粒子が熱化される過程を調べ、高エネルギー粒子と熱浴中の粒子との非弾性散乱によって、暗黒物質が生成され、数100GeV以上の比較的大きな質量を持った暗黒物質が観測値を説明することを明らかにした。 さらに、インフレーション中に生成される宇宙の密度揺らぎの計算に関して、ストカスティック形式を用いた新たな計算方法を提案し、この新たな計算法を簡単なスロー・ロール型のインフレーションに適用し、解析的に揺らぎのパワースペクトルを計算し、従来の方法と無矛盾な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、アクシオンの宇宙論的問題に関して、インフレーション中にアクシオンが獲得する等曲率揺らぎを抑制するメカニズムとそれが新たな宇宙論的問題(=ドメイン・ウォール問題)を生じないための条件を明らかにすることができた。 さらに、暗黒物質生成に関して、インフレーションの再加熱温度が非常に低い場合でも、インフラトンの崩壊によって生じる高エネルギー粒子が熱化される過程で、高エネルギー粒子と熱浴中の粒子との非弾性散乱によって、暗黒物質が生成され、数100GeV以上の比較的大きな質量を持った暗黒物質が観測値を説明できることが明らかになった。この研究により再加熱温度が低い場合でも従来考えられていたよりも多くの暗黒物質が生成されるという、新たな知見を得ることができ、暗黒物質生成の新たな可能性を提示した。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度末に宇宙背景放射の偏光を計る観測で、Bモードと呼ばれる偏光が発見され、インフレーションのエネルギースケールが高いことが報告された。これが正しければインフレーション模型やそれが作る揺らぎに大きな制約が生じる。したがって、2014年度以降は、宇宙背景放射の偏光観測の結果を踏まえて、アクシオン模型、バリオン数生成や暗黒物質生成機構について再考する必要があり、そのことを最重要課題として研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度に購入予定であった数値計算用の計算機に関して、購入予定の計算機の発売が当初の計画より遅れ、年度内の購入が困難となり、購入を次年度に延期したためその分約30万円の次年度使用額が生じた。なお、2013年度は解析的な手法による研究が中心で、数値シュミレーション等は既存の計算機で遂行できたため研究の遂行に問題は無かった。 2014年度に前年度購入予定の計算機を購入する予定。
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