H28年度は小スケールの揺らぎに注目して、それが宇宙論に及ぼす影響を調べた。まず、宇宙が誕生して約1秒程度の時期に起こる宇宙初期の元素合成で合成されるヘリウムの存在比が密度揺らぎの影響でどう変化するかを、揺らぎの2次の効果まで考慮して調べた。この結果、弱い相互作用による陽子・中性子の入れ替え反応が揺らぎによって影響を受け、ヘリウムの存在比が減少することを明らかにし、ヘリウムの観測値から揺らぎの大きさに対して制限を得た。また、小スケールに大きな密度揺らぎがある場合には、原始ブラックホールが生成することが知られている。そこで、原始ブラックホールを生成するような大きな揺らぎを作るインフレーションモデルとしてインフレーションが2段階で起こるダブルインフレーションモデルを考え、このモデルに基づいて生成される原始ブラックホールが宇宙の暗黒物質を説明できること、また、LIGOによって発見された重力波イベントを説明する数10太陽質量の原始ブラックホールも生成できることを明らかにした。 研究機関全体を通じて、暗黒物質の有力な候補となる素粒子論的候補であるアクシオンや超対称性粒子がインフレーション中に獲得する揺らぎの性質(特に等曲率揺らぎ)とその進化に着目して、それが宇宙背景放射等に与える影響から、暗黒物質の背後にある理論モデルに強い制限が得られることが明らかになり、素粒子モデル構築する上で重要な示唆を与えることができた。また、宇宙の物質と反物質の非対称性に関して、バリオンを生成する有力なモデルであるアフレック・ダイン機構に関して、Qボールというソリトンの生成を通じてバリオン数と暗黒物質の量の間に関係がつけられることや、バリオンの等曲率揺らぎの重要性を明らかにした。また最終年度には暗黒物質として原始ブラックホールの可能性があることを明らかにした。
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