研究課題/領域番号 |
25400254
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
慈道 大介 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30402811)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 理論核物理 / ハドロン物理 / カイラル対称性 / 中間子原子核 / η'中間子 / ハドロン複合状態 / K中間子 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、核物質中でのカイラル対称性の部分的回復を実験事実より検証することを目的としている。特に、部分的回復がさまざまな系で起きていることを系統的に確認をする。本年度は、特にη’N相互作用の計算と、K中間子の有限密度効果をカイラル対称性の部分的回復の観点から議論を行った。 1.η’の質量生成にはUA(1)量子異常の効果が不可欠であるが、その効果がη’の質量生成に影響を与えるためには、SU(3)カイラル対称性が破れている必要がある。このことにより、η’はσ場との強い結合が予想され、核子もσ場との結合が強いので、σ交換によるη’Nの2体束縛状態の存在が期待されている。今年度は、重水素標的におけるη’やηの光生成反応を考えることで、η’N束縛状態のシグナルを観測する可能性を検討した。陽子が超前方に射出される γd → ηnp 及び γd → η’np 反応の散乱断面積の計算を行った。結果として、η’Nの束縛状態が存在すれば、そのシグナルは上記反応のη’Nしきい値の下にピークとして現れることを確認した。また、束縛状態の有無がη’N不変質量分布のしきい値近傍の構造に表れることが分かった。 2.K中間子と核子の系には強い共鳴状態が存在しないので、K中間子に対する核媒質効果を比較的クリーンに研究できると考えられている。本年度、K中間子に対する核媒質中での波動関数くりこみの影響を見積もるために、KN相互作用をカイラル摂動論に基づいて考察を行った。低エネルギーのKN散乱断面積を再現するように、低エネルギー定数を調節し、得られた散乱振幅をもとにして、K中間子の核媒質中での自己エネルギーを低密度近似で計算し、波動関数くりこみの影響を見積もった。その結果、波動関数くりこみは核密度で10%程度あることがわかり、現象論的に知られている線形密度近似の破綻分を説明する可能性があることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
η’N2体束縛状態の観測可能性を調べ、また、それに伴った実験も計画されており、η’の核媒質中の性質を明らかにするための基礎データが集まりつつある。また、カイラル対称性の部分的回復の系統性を調べるため、K中間子についても研究を着手し、今年度は具体的な計算が進み、成果が上がっている。
|
今後の研究の推進方策 |
η’中間子の核媒質中での2核子吸収や光学ポテンシャルの計算について、論文にまとめる。また、K中間子についても、仕事が一区切りついているので、早急に論文にまとめるようにする。来年度は、最終年度になるので、今までの研究を総括し、研究成果を公表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度、所属機関異動のため、研究環境が大きく変わり、当初予定していたように研究計画、特に出張計画が遂行できず、研究費を繰り越すことになっている。今年度は、また、学内外の委員を多く務めている関係で、海外出張による共同研究打合せや成果発表を行うことができなかった。その分の研究費を次年度に繰り越すことになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
昨年度より、本研究課題に協力研究者として、大学院生が加わっている。大学院生による積極的な成果発表、情報収集を行うことで、前年度の繰り越し分を当該研究活動として、利用したい。
|