研究実績の概要 |
今年度の初めは,昨年度に始めたWilson作用からエネルギー・運動量テンソルを構成する仕事を完成させた.エネルギー・運動量テンソルの研究は1930年代に始まる長い歴史のあるものだが,Wilson作用を使って構成する仕事は,本研究がはじめてと思われる.Wilson作用の並進および回転対称性に基づいて,保存するエネルギー・運動量テンソルの可能性をできるだけ制約するという成果は,論文で扱った実スカラー場の場合に限らず,YM理論も含んで広く応用できる結果である.夏に,ゲージ理論への応用を進めたが,まだ十分時間をかけたとはいえず,論文をまとめるまでの成果は得られていない.10月にBala Sathiapalan教授(Institute of Mathematical Sciences, Chennai, India)を招いて,厳密くりこみ群の2次元重力理論への応用について議論した.通常,運動量空間で定式化される厳密くりこみ群を座標空間で定式化する必要性が明らかになったが,一般座標変換のもとでの不変性をどう取り込むか,未だに解決できていない.この共同研究は現在も進行中である.年が明けてからは,新潟大学の五十嵐尤二名誉教授,五十嵐克美教授とともにWilson作用とそれに対応する1PI作用に対する波動関数くりこみの一般論を議論した.1PI作用を使ってどうやるかの処方箋は,経験的に解明されていたが,Wilson作用の立場から,その処方箋を正当化することに成功した.現在,論文にまとめる作業を行なっている.
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