研究概要 |
本年度は「研究機関内に明らかにする事項」中、(B)有限温度QCD相転移へのアンダーソン局在の影響の解明 を大きく進展させた。研究協力者であるKovacs氏らと共同して、物理点でのNf=2+1 QCDの有限温度シミュレーションによるディラック演算子のバルク固有値の生成を行った。具体的には、高温相(T=2.6Tc)を表す、空間サイズ24, 28, ... , 48、虚時間サイズ4の格子上で、それぞれO(10**3)種類のトラジェクトリについて初めのO(10**3)個のKSディラック固有値を求めた。これらの固有値から準位間隔分布を導出し、局在転移の移動度端を記述することが確立している遷移ランダム行列から解析的に得られる同分布を用いてフィットを行うことにより、スケール不変な移動度端がディラックスペクトル中の特定の位置に存在することを精密に示した。連続理論においてもこの値より小さい固有値に対応するモードはアンダーソン局在しておりハドロン相関関数のスペクトル分解に寄与しないため、この発見はカイラル相転移の機構について重要な情報を与える。私はこの成果を、国際会議LATTICE2013の基調招待講演において口頭発表し、その内容を西垣, Giordano, Kovacs, Pittlerの共著論文として出版した。 また「研究機関内に明らかにする事項」中の(A)に関しては以下の成果を得た:研究協力者である山本氏と共同して、小格子上でのSU(2)×U(1)ディラック固有値(ただしU(1)は非コンパクトな力学場の場合と、背景場の場合の双方)を、U(1)場の結合定数・背景値を細かく変化させながらO(10**4)種類のKSディラック固有値を求めた。この個別固有値分布をchGSE-chGUEクロスオーバーランダム行列からの解析結果とフィットすることにより、O(10**-3)の精度でパイオン崩壊定数を精密決定することに成功した。この成果を日本物理学会2013年秋季大会および国際研究会RMT2013にて口頭発表した。この結果に関する系統誤差の分析を現在進めている。
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