研究課題/領域番号 |
25400265
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中尾 憲一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90263061)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 一般相対性理論 / 宇宙論 / 非一様宇宙 / ダークエネルギー / ダークマター / ブラックホール / 超高速回転体 / 構造形成 |
研究実績の概要 |
現代の標準宇宙モデルは、「我々のいる場所は特別ではない」というコペルニクス原理を作業仮説として構築されている。しかし、非コペルニクス的な非一様性、すなわち我々を中心として等方的な非一様性が存在するかどうかを確認することは容易ではない。今年度は、等方な密度揺らぎがダークエネルギーの状態方程式の決定にどの程度の系統誤差を生み出し得るのかを明らかにするために、プランク衛星による宇宙背景放射の観測結果と無矛盾なガウス的揺らぎを仮定して解析を進め、ダークエネルギーのエネルギー密度と圧力の比に0.1%の誤差が入る確率は0.05程度、0.2%程度の誤差が入る確率は1万分の1程度という結果を得た。この結果は、ダークエネルギーがエネルギー条件を破るかどうかを0.1%程度の精度で議論することに現段階では意味がないことを示唆する。一方、ダークエネルギーの状態方程式が宇宙定数からずれている場合、それが断熱的な等方揺らぎによる見かけ上のものであるかどうかは、「距離-赤方偏移関係」、「宇宙背景放射の揺らぎのスペクトル」、「2つの赤方偏移におけるバリオン音響振動スケールの銀河の相関関数」の観測結果によって原理的に確認可能であることを示した。 当初予定されていた研究ではないが、回転するブラックホールによって散乱された電磁波が軌道角運動量を持つことを指摘した先行研究に触発され、その生成機構の詳細な解析を行った。その結果明らかになったことは、ブラックホールが回転していなくても軌道角運動量は生成されること、そして、光子の軌道角運動量を測定することにより、光子がブラックホールによる重力レンズ効果を受けているかどうかを確認することができることが明らかになった。この結果は、光子の軌道角運動量を測定することにより、暗黒物質の候補である小質量ブラックホールの存在が確認可能であることを意味する画期的なものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホール宇宙モデルについては、当初は予定していなかった光の軌道角運動量による観測的な側面での進展があった。 相対論的重力多体系の研究に関しては、H25, H26年度に球対称な球殻の二体系の数値解析を行い、非自明な相対論的現象である爆縮によるブラックホール形成が起きる条件を明らかにした。H26年度までの報告には記載していないが、H26年度から高速回転する軸対称な球殻の最小サイズについての研究を進めており、H27年度は爆縮によるブラックホールの形成だけでなく、爆縮による超高速回転体 (superspinar) の形成可能性についての研究も進めている。この現象は相対論的重力多体系だけでなく、より基本的な相対論の問題として重要な意味を持つ。 H25年度のコペルニクス原理の検証に関する研究については、観測と整合的な非コペルニクス的非一様宇宙モデルである巨大ボイド宇宙モデルにおける銀河団程度のスケールの構造形成過程を摂動計算で明らかにし、銀河分布の二点相関関数の観測を通して、非コペルニクス的な非一様性の存在を明らかにできる可能性があることを具体的に示した。同様の解析を南アフリカの研究グループが異なる近似法で解析し若干異なる結果を得ており、H26年度はその違いの原因を解明した。そして、H27年年度は、非コペルニクス的な非一様性が、ダークエネルギーの状態方程式を決定するための観測結果に、どのような影響を与えるのかを解析するとともに、複数の観測量 (距離-赤方偏移、宇宙背景放射の揺らぎのスペクトル、バリオン音響振動スケール) から、非コペルニクス的な非一様性の存在に制限を与えられることを示した。予定通りの進行ではないが、相対論的非一様宇宙に関する学術的に重要な成果が得られたと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
ブラックホール宇宙モデルについては、H25年度に得られた数値シミュレーションの解析結果を参考にしながら、今後は、解析的あるいは準解析的な解の構成をめざす。 相対論的重力多体系については引き続き、無衝突粒子からなる球対称だが、非自明な少数多体系の詳細な解析をカオスの観点から進めるとともに、多体系の時間発展を計算する数値プログラムの開発を進める。また、爆縮による超高速回転体の形成と関連して、帯電した無衝突粒子からなる球殻の少数多体系における爆縮現象の解析を行うべきであると考えている。 コペルニクス原理の検証に関する研究については、等方的な巨大ボイド宇宙モデルにおける宇宙論的な重力波生成の解析と、これまでの解析を宇宙定数がある場合への拡張を行ない、観測データとの比較をすることにより非コペルニクス的な非一様性への制限をつける。
|