本研究は、近年、精密科学としての進展が著しい分野である観測的宇宙論をさらに精密にするために、相対論的な非一様宇宙の理論的な研究を行うことを目的とし、H25年度からH28年度にかけて進められる予定であったが、H29年度に繰り越された。最終年度であるH29年度には、非一様宇宙のブラックホール形成において、非線形効果によって生成された物質の角運動量の影響を評価し、生成されたブラックホールの角運動量が、放射優勢期よりも物質優勢期の方が非常に大きいことを明らかにした。それ以外に、宇宙論的なスケールのとは限らない一般的な非一様性だが、超弦理論の予言する superspinar (高速回転体) の安定性についての研究をさらに進め、superspinar の周りに不安定性の温床と考えられるエルゴ領域があったとしても、それ自身の物理的性質が明らかにならない限り、安定である可能性を排除できないという、これまでの定説を覆す結論を得た。また、中心的な研究課題である非一様宇宙モデルに関する研究期間全体を通じて得られた成果を簡潔にまとめると以下の通りである。現代の標準宇宙モデルは、「我々のいる場所は特別ではない」というコペルニクス原理を作業仮説として構築されている。この作業仮説を観測事実としたいところだが、非コペルニクス的な非一様性、すなわち我々を中心として等方的な非一様性が存在するかどうかを確認することは容易ではない。そこで、非コペルニクス的な密度揺らぎがコペルニクス原理と整合的な非等方密度揺らぎの重力不安定性による成長や、宇宙背景放射の揺らぎに与える影響を明らかにし、非コペルニクス的な揺らぎにある程度の制限を与えることが可能であることを示した。
|