本研究の成果は,ゲルマニウム76原子核,セレン82原子核,テルル130原子核およびキセノン136原子核に対して,ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の核行列要素を評価したことである。本研究では,殻模型計算と幾つかのタイプの核子対殻模型計算により得られる原子核波動関数を用いて核行列要素の数値解析を実行したところ,模型空間が小さくなるにつれて核行列要素が大きくなることを明らかにした。また,ペアリングギャップと核行列要素の間には相関があること,殻模型相互作用において対相関相互作用を強くすると核行列要素が大きくなることを明らかにした。 さらに本研究では,殻模型により質量数210領域,質量数220領域の偶偶核・奇核・奇奇核について殻模型により精密計算を行い,原子核の励起メカニズムを明らかにした。この領域の核子間にはたらく相互作用の研究は現在まであまり行われてこなかったため,本研究では現象論的な有効相互作用を用いて数値解析を実行し,幅広い核種のエネルギー準位や電磁遷移の実験値を再現した。質量数220領域の原子核においては幾つかの状態を再現できなかった。殻模型波動関数を解析したところ,コア励起の効果を取り入れる必要があることを確認した。 その他の成果として,質量数200領域の原子核について,パリティと時間反転対称性を破る相互作用により生じるシッフモーメントを計算し,その結果を用いて水銀199原子の電気双極子モーメントの評価を行った。本研究により,このシッフモーメントは特定のエネルギー準位の寄与が重要であることが明らかになった。
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