研究課題/領域番号 |
25400273
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
江口 徹 立教大学, 理学研究科, 特任教授 (20151970)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | string theory / superconformal algebra / elliptic genus / K3 surface / Mathieu group / moonshine |
研究概要 |
K3曲面はSU(2)ホロノミーを持つ2次元の複素多様体であり、数学では最も重要な幾何学的対象のひとつとして詳しい研究が行われてきた.超弦理論においてもK3曲面はゲージ対称性など素粒子のもつ基礎的な対称性の起源となる重要な役割を果たすと考えられおり、K3曲面上にコンパクト化された超弦理論の研究は重要な研究テーマとなっている。K3上の超弦理論はN=4の超共形代数の対称性を持っている. 一方、複素多様体の楕円種数は、多様体の持つ各種の位相不変量の生成母関数とも考えられ、ヤコビ形式として変換するため優れた数論的な性質を持っている.江口は2010年にK3の楕円種数をN=4超共形代数の指標で展開し、その展開係数がマシュー群M24の規約表現の次元の和で書ける事を発見した.この現象は有名なmonsterous moonshine(モンスタラスモーンシャイン)ににていることから、Mathieu moonshine(マシュームーンシャイン)と呼ばれるようになり多くの研究者の注意を集めた.その後、マシュームーンシャインの研究が盛んになったが、その物理的あるいは数学的起源は未だ解明されていない.現在マシュームーンシャインの様々の拡張が試みられているが、江口は今年度、エンリケス曲面(K3曲面を2つに割ったような曲面)を調べ、その楕円種数がマシュー群M24のかわりにM12の表現の和に書けることをしめした.また、N=4超共形代数のクーロンガス表示を用いて、BPS代数の構成、マシュー群の導出を試みている. マシュームーンシャインの解説が科研費ニュース2013年度4号に掲載されている。 http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_letter/data/news_2013_vol4/p08.pdf
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
江口はモンスタラスムーンシャインの時に用いられたマッカイトンプソン級数に相当する級数、twisted elliptic genusを求め、K3楕円種数のM24の表現への分解が非常に高い次数まで成り立つ事を示した.この結果は数学者によって拡張され、分解が任意の次数で成立することが証明された.この研究は特に重要な価値を持つと言える. また、K3の楕円種数以外にムーンシャイン現象を示す例がないか、詳しい研究が行われ、Umbral moonshine(アンブラルムーンシャイン)と呼ばれる新しい系列が発見された(Cheng-Ducan-Harvey)。アンブラルムーンシャインはニーマイヤ格子と呼ばれる24次元の自己双対格子と関係していることが知られている.しかしアンブラルムーンシャインはマシュームーンシャインと違ってはっきりした幾何学的解釈を持たないところが弱点で、N=4共形不変性をもつか N=2共形不変性を持つかもはっきりしない.江口はアンブラルムーンシャインの例をN=2共形代数の指標で分解しL2(11)の表現に分解する事を示した.また江口は今年度K3の楕円種数を2で割って得られるエンリケス曲面の楕円種数を考えると、それがマシュー群M12の表現の次元の和で書ける事を示した。
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今後の研究の推進方策 |
マシュームーンシャインの現象は保型形式、楕円種数、超弦理論など異なる分野の数学、物理学の交差する領域に位置していて、学際的な研究の観点からも非常に興味が持たれる.その本質はまだ見抜けていないが、一種の量子論的な幾何学なのではないかと考えられる.江口は来年度、N=4理論のクーロンガス表示を用いてBPS表現のフュージョン代数を調べその中にマシュー群の構造が潜んでいないか、研究する計画である。
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