研究課題/領域番号 |
25400274
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
黒木 経秀 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 助教 (40442959)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 行列模型 / double scaling limit / 種数 / 繰り込み群 / 非局所場の理論 |
研究実績の概要 |
昨年度発見した、超対称行列模型のdouble scaling limitによって2次元のRR flux背景中の超弦理論が非摂動的に定式化される可能性について、今年度は主にその摂動論的側面の補強となる解析を行った。昨年度の研究においては、行列模型の1/N展開のleadingの相関関数が、弦理論として期待される形を持つという要請でdouble scaling limitを定めたが、この極限によって、実際に高い種数の相関関数もすべて有限に寄与することは確認されていなかった。従って、まずは行列模型側で、1点関数および2点関数に対し、任意の種数の相関関数を求め、そのdouble scaling limitが有限になること、さらにオペレーター毎に種数によらずNのみに依存した繰り込みファクターが定まることを確認した。これにより、double scaling limitは摂動の全次数で有限であることを確かめた。また、そのlarge order behaviorが弦理論のそれと一致すること、およびそこから求まる非摂動効果の形が、昨年度求めたインスタントン作用と完全に一致することを示した。昨年度は超対称不変なオペレーターに基づきインスタントン作用を定めたが、今年度の研究では、超対称不変でないオペレーターの相関関数のlarge order behaviorにより求めたため、両者の一致は、我々のdouble scaling limitの存在およびそれに基づく2次元の超弦理論の無矛盾性の強い証拠となる。 また、これと相補的な研究として、fuzzy sphere上で対蹠点に存在する場が相互作用するような非局所場の理論に対し繰り込み群を適用し、非自明な固定点を発見し、そこでのオペレーターのスケール次元を定めた。この結果は新しい非局所相互作用を持つ非可換時空上の場の理論の非摂動的存在を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般に行列を複数個持つ行列模型の高い種数の相関関数は求めることが困難であるが、本研究ではNicolai mappingとGUEの結果をうまく用いることにより、1点ないし2点ではあるが任意の種数での相関関数を求め、そのdouble scaling limitの陽な形を得ることができた。この相関関数は超対称性で制限できないものであり、その結果のみならず新しい導出方法自身の存在価値は大きい。また、この結果に基づき、前年度全く違う方法で求めたインスタントン作用を別の方法で再導出することにも成功し、このことにより、double scaling limitの存在の非常に強い証拠を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、1点ないし2点関数の任意の種数の相関関数を求めたが、ランダム行列理論の結果から、より多点の相関関数も、2点関数を基にして構成できることが予想されるので、一般の多点関数の任意の種数の相関関数の、少なくともパラメーター依存性が求まることが大いに期待できる。一方、昨年度の対応に基づき、行列模型の結果を再現すると期待されるN=2 boundary Liouville理論の相関関数は、従来知られていないタイプのものを求める必要があるが、T-dualityをうまく用いてそれを導出しながら、D-brane作用とインスタントン作用の一致や、odd moduliの取り扱いなどを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はパソコンの劣化に伴う研究効率の低下を防ぐため新しいパソコンを購入予定であったが、研究遂行に支障を来すほどの劣化がなかったため、購入を見送った。また、台湾の共同研究者との共同研究においては、Eメールや研究会で出会ったときなどに議論を行うことで着実な研究成果が得られたため、台湾へ研究打ち合わせに行く必要がなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
行列模型の高い種数の相関関数の導出においては、確率論の結果が主要な役割を果たしたため、この結果は特に当該分野の数学者との共同研究の道を拓くものである。また、非可換時空上の新しい非局所場の理論の研究は繰り込み群の専門家に注目されることが十分期待できる。そこで従来予定していた素粒子論や弦理論の研究会の枠に囚われず、数学や繰り込み群の研究会にも積極的に出席し情報収集すると同時に研究発表することにより、研究の幅を広げ、他分野の知識を自分の研究に活かすことに使用する。
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