平成28年度には、前年度に引き続き格子上のSU(2)ゲージ理論の研究を進めるとともに、これに不可欠である計算プログラムの開発を行なった。前年度までと同様に格子上でカイラル対称性の良い性質を持つドメインウォール作用を用いたが、これまでに軽い質量領域での計算が難しいことが判明したため、これを改良する研究を行なった。リンク・スメアリングと呼ばれる手法の導入により、これまでより数倍小さい質量を扱うことが可能になった。これをフレイバー数2のシミュレーションによって確認した。フレイバー数4以上の基本表現フェルミオンへの応用を行なっている。随伴表現のフェルミオンの計算については、これまでに格子化による効果である青木相の解析など準備的研究を行なってきたが、動的ドメインウォールフェルミオンによるシミュレーションに向けたコードの準備を行なった。 同時に、この研究に必要なシミュレーションプログラムの開発と高速化の研究を行なった。演算加速器であるPezy-SCプロセッサに対し、GPU用と同様OpenCLを用いて実装することによって格子ゲージ理論コードを移植し、最適化と実効性能の測定を行なった。格子シミュレーションコードBridge++に組み込む形での公開に向けて、準備を進めている。 研究期間を通じて、格子ゲージ理論でのカイラル対称性に着目し、SU(3)ゲージ理論であるQCD、カラー自由度が2であるSU(2)ゲージ理論に関する研究を行なった。後者は標準理論を超えた物理の探索に関連しており、基本表現フェルミオンに対して、フレイバー数に依存した相構造について興味深い性質を解明することができた。SU(2)随伴表現のフェルミオンに関してもカイラル対称性に関係した格子理論特有の相に関して理解が進んだ。これらの研究に関しては、今後も継続してその性質を解明してゆくつもりである。
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