研究課題/領域番号 |
25400286
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
土手 昭伸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (90450361)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ストレンジネス核物理 / K-中間子原子核 / 共鳴状態 / 結合チャネル / 少数系 / チャームクォーク |
研究実績の概要 |
ストレンジネス核物理において、K中間子原子核(反K中間子が束縛した原子核)はホットなトピックである。ストレンジネスをもつ反K中間子(Kbar)と核子(N)との間には強い引力が働く。そのためK中間子原子核では、中性子星内部に匹敵する高密度状態が生成される可能性がある。K中間子原子核の性質を明らかにするため、最も基本的な系であるK-pp(二つの陽子とK-中間子からなる三体系)を丁寧に調べている。 このK-ppは本来KbarNN-πΣN-πΛNといった結合チャネル系であり、かつ共鳴状態として存在する。結合チャネル系と共鳴状態という二点を同時に扱える結合チャネル複素スケーリング法(ccCSM)を用い研究を進めている。H26年度、複素スケーリング法のユニークな性質を利用することで、共鳴状態としての性質を損わず効率的にKbarNNシングルチャネル問題として扱う方法を確立した。(ccCSM+Feshbach法)そしてカイラル理論に基づくKbarN相互作用を用いて調べた結果、K-pp(Jπ=0-、I=1/2)は20-30MeVと浅く束縛し、崩壊幅は20-60MeVの範囲にあるという結果を得ていた。 その研究過程において、K-ppにはもう一つ解があるような感触をつかんでいた。つまり、よく知られているΛ(1405)(K-p準束縛状態)と同様に、K-ppもダブルポール構造を持つと考えられる。 H27年度には、このもう一つの解について丁寧な解析を進めた。その結果まだ計算に不完全さが残るが、80MeV程度と深く束縛し200MeV近くの大変広い幅をもつ状態が存在することが分かった。この結果はJ-PARC E27実験グループが報告したK-ppらしき状態と対応しているように思え、興味深い。本成果をストレンジネス核物理の国際会議(HYP2015)を始め、多くの研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H26年度には、結合チャネル複素スケーリング法とフェッシュバッハ法を組み合わせて、効率的にシングルチャネル問題として処理し、K-ppの結果を得ることが出来ていた。確かにこれでK-ppのポール位置(束縛エネルギー、崩壊幅)を知ることが出来たが、フェッシュバッハ法によりπΣN、πΛNといったKbarNN以外のチャネルを消去してしまったため、本当の意味でK-ppの性質を知ることが出来ない。9で述べたように、K-ppがダブルポール構造を持つことが分かってきており、二つのポールの性質の違いを議論したいところである。特に二つのポールで、KbarNN成分とπYN成分がどのような割合で含まれているか?ということは、実験の解析にも有益な情報をもたらす。そこでH27年度はフェッシュバッハ法を用いない、完全な結合チャネル複素スケーリングによってK-ppを調べる予定であった。そのための計算コードを開発したが、どうもバグがあるようである。H27年度には偶発的に複数の所用(審査委員、論文の査読)が重なり、また家庭の事情(育児のサポート)もあり、なかなかデバッグに集中できず残念ながら計算コードを完成させることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
チャネル消去を行わない、完全な結合チャネル複素スケーリング法の計算コードを完成させる。KbaNNだけでなくπΣN、πΛNチャネルも陽に扱い、先のccCSM+Feshbach法によって得られた二つのK-ppのポールの性質を分析する。更には近年報告された/されつつある実験結果(J-PARC E27やE15実験)との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の科研費(新学術・科研費A)の分担者となっており、そちらからの分担金は原則単年度決算であるため、テーマ的に重複する部分に関してはそちらの方を優先的に使用していった。またH27年2月に子供が産まれたが、夫婦ともに実家が遠く、妻一人で子供の世話をせねばならない。しかし妻一人で子供の世話をし続けるのにも限界があり、どうしても私も手伝わねばならなくなった。そのため、研究会等への出席や出張を控えざるを得なくなった。その結果、本科研費の使用が予定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
MENU2016など、ストレンジネス核物理・ハドロン物理に関する重要な国際会議が、今年度日本で行われる。また私が所属するKEK理論センターにはJ-PARC分室があり、そこでもK中間子原子核に関する研究会やミーティングが度々行われる。それらに積極的に参加する。またH28年4月から正式に、私が学生(修士2回生相当)を指導することとなった。その学生にも本研究課題をやってもらい、成果の発表や情報収集のために、彼には様々な研究会やミーティングに参加してもらう。その学生のための旅費にも使用する予定である。
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