研究課題/領域番号 |
25400290
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
成田 晋也 岩手大学, 工学部, 教授 (80322965)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 真空紫外光 / 窒化物半導体 / フォトダイオード / シンチレーション光 / 液体アルゴン測定器 |
研究実績の概要 |
本研究では、窒化物半導体のうち、近年様々な電子デバイス材料として実用が進んでいるAlGaN半導体を用いて、素粒子物理学実験分野、特に、液体アルゴン飛跡測定器で重要な役割を担う高感度・高速応答真空紫外光検出器の開発を目指している。 昨年度から引き続き、AlGaNエピタキシャル基板をベースとしたショットキーダイオードについて、電気特性評価を進めるとともに、特に紫外領域における分光感度特性を詳細に調べた。中でも、Al含有量の異なる基板を用いた素子の紫外光感度を比較し、真空紫外領域での実用に対する各々の有用性を検証した。その結果、200 nm以下の真空紫外領域での感度は、いずれのタイプも10-20 mA/W程度であり、Al含有量の違いによって有意な差はないことがわかった。 一方で、光感度の向上を図るため、バルクGaN基板(膜厚400 um)によるアバランシェ型フォトダイオードおよびSiC上にエピしたAlGaN基板による大受光面積フォトダイオードの作製にも着手した。現在は、半導体プロセスの最適化を図っている。 さらに、液体アルゴン(-186℃)飛跡測定器における実用性を検討するために、極低温下でのAlGaNダイオードの電流-電圧(I-V)特性、容量-電圧(C-V)特性を測定し、光検出性能への影響について調べた。I-V測定結果より、低温下では、常温に比べて順方向電流の立ち上がり電圧が大きく、また立ち上がり後の抵抗値は、低温下の方が小さいことがわかった。一方で、逆バイアス印加時の暗電流値は、低温下において、常温に比べて数分の一程度に抑制されることがわかった。このことより、低温下において、光感度の向上が期待できることがわかった。またC-V測定から、低温下では、常温に比べて容量が一桁程度増大することが見出された。低温時の動作特性については引き続き検討を行っていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から引き続き素子特性の評価を進めるとともに、その結果を踏まえて、基板の元素組成比など、材料/素子パラメータを変えながら特性評価を繰り返し行い、真空紫外光検出器としてのAlGaNフォトダイオード素子の性能向上のための指針を明らかにした。また、最新の高品質バルク型基板による素子作製を進め、感度の大幅な向上のための見通しを示した。さらには、液体アルゴン測定器への実装も念頭においた極低温環境下での素子特性評価を行い、光応答性への影響についても明らかにした。 これらの成果は、当初の研究計画に対して、予定通りのものである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの実用性向上のための研究開発を継続して行い、高感度・大面積・大出力の実用真空紫外光検出器を実現させる。 高抵抗バルクGaN基板による素子作製では、特にアバランシェ型フォトダイオードの可能性について検証を行う。前年度からの検討により、素子作製のための条件の最適化が進んでいることから、今年度は主に信号増幅度の測定を行う。一方で、高品質AlGaN基板による大受光面積(> 1 cm2 程度)を持つ素子や小口径ダイオードチップを並べたアレイ型素子を作製し光感度を評価する。 また、ダイオードの低温環境下での動作特性についても、光感度や時間応答性の変化といった観点から定量的に明らかにする。 これらの試験によって得られる高感度フォトダイオードについて、現在参加している大型液体アルゴン三次元飛跡測定器開発国際共同研究での連携を活用し、そこでの実用可能性について、感度、時間応答性(およびこれら情報に基づく飛跡決定精度)の観点から総合的に検証する。 これらを加えた3年間の研究成果により、新しい真空紫外光検出器としての窒化物半導体フォトダイオードの可能性を明らかにする。これによって、真空紫外シンチレーション検出器など、特に、素粒子実験分野での実用検出器としての基礎を確立させる。
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