陽子円形加速器に設置される荷電変換炭素薄膜は、近年の加速器技術の発展により、ビーム照射部は1800Kもの高温になる。そこで本研究では、熱計算とビーム照射実験によって様々な高温融点物質の混合率と発熱温度の関係を明らかにし、発熱温度が低く、変形の少ない薄膜の開発を目指す。最終的に寿命と発熱温度の関係を解明し、大電流ビームでも高温損傷の受けにくい長寿命荷電変換薄膜の開発を行うことを目標とした。 薄膜の発熱温度は変形やピンホール発生に大きく影響している。そこで、薄膜の温度分布をANSYSにより解析したところ、薄膜の熱伝達には輻射の他に熱伝導率と比熱が大きくかかわっていることを見出した。熱パラメータの中でも特に比熱が発熱温度への影響が大きく、熱伝導率が約3倍になっても158Kの温度減少しかし増さないのにもかかわらず、比熱が約4倍になった場合、659Kもの非常に大きな温度減少を示すことを確認した。さらに、様々な高融点物質を組み合わせ、その混合割合を変えた時に発熱温度がどのように変化するか、熱計算ソフトを使った伝熱解析により調査し、発熱温度抑えることが出来る物質と混合割合を見出した。また、構造計算により、熱ストレスも大きく軽減されることも示した。この結果を元に薄膜の製作を行い、実働している加速器に薄膜を設置し、ビーム照射している薄膜を実際に変形やピンホールの発生や成長過程を測定することで、高電流ビーム照射でも変形の少ない長寿命荷電変換薄膜として使用できることを実証する予定であったが、研究中止のため、薄膜に製膜までとなった。この結果は、1000ページのデータシート件、レポートとして提出、発表を行っている。このデータは、今後の荷電変換薄膜開発の指標となることが期待される。
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