本研究は大強度陽子加速器施設J-PARCで行われる中性K中間子の稀崩壊探索実験において、大強度中性ビームの品質診断を行い、背景事象の定量的な評価と実験感度に与える影響を研究するものである。対象とする過程は長寿命中性K中間子が中性パイ中間子と2つのニュートリノに崩壊するもので、CP対称性を破ることが知られていて、未だ観測されていない。素粒子標準理論では100億回に数度の確率で起こると計算されており、このような稀な過程を捉えるためには、大強度のビームはもとより、その品質を把握して背景事象に与える影響を理解することが必須である。本研究は、中性ビームの強度や位置分布の多角的計測方法の確立、ビーム品質の向上、背景事象への影響の評価、の三つの柱からなる。 平成27年度は、4月より実験施設の運転が再開され、中性ビームによる実証研究を行った。第一に、平成26年度に開発したビームプロファイル測定装置を利用してビームの二次元空間分布を測定し、その結果を利用して、中性ビームの形を整えるコリメータの精密な位置合わせを行った。第二に、中性子反応を意図的に起こさせる標的を中性ビーム中に挿入する装置を用いて、中性子反応データを蓄積し、背景事象への影響を評価した。第三に、中性ビーム強度の時間構造を測定する手法を開発した。加速器からの陽子ビーム取り出しにおいて補助的に用いられる高周波信号とビーム強度には相関があり、その結果、中性ビーム中のK中間子と中性子が検出器に到達する時間分布には差が生まれる。この差を測定することで背景事象の原因となる中性子の弁別する可能性と効果を評価した。 同時に、物理データの収集も進め、この過程が起きる確率に対する上限値の世界記録に比して約20倍のデータを蓄積した。現在、データ解析が進行中で、本研究で得られた背景事象の評価も重要な要素として活用されている。
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