高い電子伝導性や絶縁体-金属(I-M)転移など多くの機能性を有する還元型チタン酸化物Ti4O7を対象とし、光スイッチ等の相転移制御による機能性の発現を目指して、その光誘起相転移の特性を理解するための研究を行いました。初めにTi4O7の良質なバルク単結晶試料を作成し、超短パルス光を用いた時間分解反射分光法およびイメージ測定法で光誘起相の形成過程を調べたところ、相転移領域が時間経過に伴い増大する様子を、水平方向への空間的な拡大として観測することに成功しました。誘電率の解析から各相の割合の時間変化を求め、光誘起相の拡大速度を定量化したところ、光誘起相は励起直後には電子格子相互作用により超音速で拡大すること、その後は主に音響フォノンの圧力で拡大することが示唆されました。これは、相転移領域は単調に拡大するのではなく異なる段階を経て起こることを示しており、相転移現象の時間発展を考える上で重要な観点を与えるものであると考えられます。 次に、金属相の出現で生じる自由電子吸収に対応するドゥルーデ吸収端の変化に敏感なテラヘルツ(THz)光をプローブとして、このI-M転移の過程を観測しました。作成条件を網羅することで得た厚さ5μmの極薄な単結晶試料を用いることで、THz光の透過測定が初めて可能となり、過渡金属相の出現と二段階の自己増殖過程を改めて見出しています。THzプローブ光を用いた観測では、フーリエ解析によって低エネルギー領域のスペクトル情報を同時に取得可能であり、絶縁層におけるバイポーラロンがI-M転移ダイナミクスにどのように関わるかなどの過渡電子状態についての議論が出来るようになります。本研究では、未だ少し結晶が厚いため詳細な議論には届きませんでしたが、Ti4O7の中間相のようなI-M転移過程の特異な電子状態を解明するために、本手法が有力であることが提示出来ました。
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