研究課題/領域番号 |
25400319
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
中田 正隆 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80180305)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地質環境 / 物質移行 / マトリックス拡散 / オングストローム空間 / ポジトロニウム |
研究実績の概要 |
地質環境中で物質は地下水とともに岩盤の亀裂を介して起こる動的な移流,岩盤基質部での静的な分子拡散によって移行する。後者はマトリックス拡散現象と呼ばれ,移行遅延をもたらす現象として認識されている。しかしながら,フィールドおよびラボスケールで実際に得られるマトリックス拡散係数は,予測値よりも遙かに高い値を示すことが確認されている。このことは,これまで見出されてこなかったよりミクロな物質移行経路の存在を示唆している。本研究課題では,堆積岩や鉱物中の物質移行の一つの要素であるマトリックス拡散現象に焦点を当て,オングストロームスケールの空間を介した物質拡散現象に着目する。はじめに目的試料について,溶液または気体を用いた物質拡散試験を推進する。拡散物質として,セシウムを予定している。試料深さ方向に対して移行物質濃度を原子吸光法で調べ,深さ依存性を求める。原理的に得られる濃度データは深さに対して減少していき,Fickの第2法則により拡散係数が決定される。ここで求められる拡散係数は,物質移行全体のマクロな拡散係数に相当する。平行して,ポジトロニウム分光を推進し,これまで検出されていないミクロな物質移行経路を調べる。移行物質がオングストロームスケールの空隙を占有すると空隙サイズや量が変化するため,これらの深さ依存性データからFickの第2法則によりマトリックス拡散係数が求められる。以上の作業により,全体の拡散に対するマトリックス拡散の寄与を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,ポジトロニウム(Ps)分光法によるミクロ孔領域の空隙の調査を行った。拡散試験後に深さ方向に切り出した試料について,オルトポジトロニウム(o-Ps)寿命計測により,ナノ空間サイズの評価を行った。加えて,空隙近傍の元素分析を陽電子寿命・運動量相関(AMOC測定)を用いて行った。セシウムや鉛を導入した試料について,AMOC測定により得られた消滅ガンマ線光子の運動量パラメータが,高運動量領域で有意に変化することが確認された。このことは,Ps寿命計測により検出されたナノ空間の近傍に存在するセシウムや鉛をo-Psが敏感に検出していることを示しており,物質移行の直接検出を遂行していくための指針が得られた。AMOC計測と平行して同時係数ドップラー拡がり(CDB)測定も推進したが,有意な元素依存性は得られなかった。CDB測定により得られる運動量分布には,o-Psに加えて自由な陽電子,パラポジトロニウムの消滅に起因する運動量分布が,時間に対して積分されて測定されているためと考えられる。このため,今後ナノ空間近傍の元素分析には,CDB測定ではなくAMOC計測が有用であることが明らかになった。以上より,平成26年度予定していたポジトロニウム分光により空隙解析は,順調に進んだと言える。現在までの達成度はおおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成27年度は,25年度と26年度に得られた空隙サイズ,空隙近傍元素データを総合解析し,マトリックス拡散現象に焦点を当てる。サブナノからナノスケールの空隙について,サイズと量の深さ依存性データから,Fickの第2法則によりマトリックス拡散係数を決定する。ここで得られた拡散係数は,ミクロ孔領域の空隙を介した拡散係数に相当する。一方,平成25年度に実施する透過型拡散試験で得られる拡散係数は,ミクロ孔領域の空隙だけでなく,巨視的な空隙も全て含んだ拡散係数である。よって,双方について比較・検討を行う。さらに,得られた拡散係数と計測された空隙を比較し,マトリックス拡散を律速するミクロな物質移行経路を特定する。得られた結果を取りまとめ,最終的には,国内学会発表,国際会議,投稿論文で成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,ガンマ線検出用シンチレータなどの消耗品の購入を予定していたが,研究進展上そこまで至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
ガンマ線検出用シンチレータなどの消耗品,旅費として使用する計画である。
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