研究課題/領域番号 |
25400321
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川村 隆明 東京大学, 生産技術研究所, シニア協力員 (20111776)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 位相回復法 / 表面モフォロジー / 反射電子回折(RHEED) / エピタキシャル成長 / 摂動法 / その場観察 |
研究実績の概要 |
反射電子回折(RHEED)図形からエピタキシャル成長中の実空間像を極短時間に求め、成長中の表面モフォロジーを実効的にその場観察する方法論を開発することを目標として研究を行った。これまでにほぼ目標を達成し、さらに実際に応用するために方法の改善を行うこととしている。 本研究では位相回復法としてX線などで利用されているオーバーサンプリング法を基礎とし、RHEEDの特徴を利用した新たな方法を開発した。RHEEDでは電子が表面にすれすれの角度で入射するため、測定できる回折図形の範囲が制限される。測定できない回折図形に代えて、等価な点での回折図形を使うことで空間分解能を改善できた。一方、オーバーサンプリング法を高速処理するためには、サンプリングする点数を減少させることに加え、オーバーサンプリング法の初期値として直前の時刻で求めた表面モフォロジーを摂動として用いる方法を開発した。この方法で、処理時間をそれまでの500分の1の0.05秒程度にでき、遅延時間0.1 秒程度で実空間像を得ることで、実効的その場観察が可能になった。この処理時間短縮の部分では空間分解能をある程度犠牲にせざるをえなかったが、最終的には20nm程度の分解能を確保でき、実用的には問題ないと考えられる。 本研究の成果を国内外の学会で発表した。興味を示す研究者は多く、討論などを通じて関連する方法についての情報を得ることができ、本研究に役立てることにもつながった。また出版社からの執筆依頼もあり、この研究がある程度の評価を得ていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反射電子回折(RHEED)図形からエピタキシャル成長中の実空間像を極短時間に求め、成長中の表面モフォロジーを実効的にその場観察する方法論を開発することを目標として研究を行い、これまでにほぼ目標を達成した。ここでは位相回復法としてオーバーサンプリング法を基礎とし、RHEEDの特徴を利用して新たな方法を開発した。 今年度の主たる成果は、1)RHEED特有のシャドウ・エッジ以下の回折図形が観測できないという問題点を補う方法として、1逆格子分ずれた回折図形を利用することで、位相回復における誤差を20%程度改善し、空間分解能を向上できたこと、2)結晶成長中では、ある時刻の表面モフォロジーを得るためにその直前の時刻で得た表面モフォロジーをオーバーサンプリング法の初期値とする摂動法を開発したこと、の2点である。新たな方法で、位相回復の処理時間を0.05秒程度にでき、遅延時間が0.1 秒程度で実験条件に合わせたその場観察が可能になった。空間分解能は上記の1)の部分で向上したが、2)の部分ではある程度犠牲にせざるをえなかった。最終的には20nm程度の分解能を確保できた。 この結果を32nd European Conference on Surface ScienceおよびEnergy Materials Nanotechnology Meeting on Epitaxy-2016において発表した。スマートな方法であるなどの評価を得るとともに、特に興味を持った数人の研究者と処理方法などについて有益な議論を行え、方法の改良に生かすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的とする結晶成長中の表面モフォロジーの実効的その場観察には、測定されるRHEED図形から実空間像を得るためのオーバーサンプリング法による処理を極短時間に行う必要がある。この処理時間が短ければ短いほど本来の意味での「その場観察」に近づく。そこで、さらに処理時間を短縮するとともに実空間の分解能を改善するため、すでに開発した方法論を改良する。また、成果を国内外に公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
反射電子回折(RHEED)図形から実空間像を再現する本研究の成果が実際に広く利用されるようにするためには、これまで開発してきた方法論の見直しを行い、さらに改良を加えることで研究の内容を充実させることが必要であると考え、期間を延長して研究を継続することとした。その研究の実施と成果の公表に必要な費用を確保するため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな方法論の開発とその研究成果の公表のために使用する。
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