本研究では、分子線エピタキシー法による結晶成長中の表面からの反射電子回折(RHEED)強度を用いて、その成長の動的過程を実空間(顕微鏡像)で“その場”観測する位相回復法を明らかにした。 従来、RHEED強度の観測では位相情報の欠如のため結晶構造を決めることはできないとされてきた。本研究では、このいわゆる位相問題を解決し、結晶成長中に表面結晶構造が変化する過程を、実空間で “その場”観測する方法(位相回復法)を明らかにした。この方法は回折図形の観測から、計算によって顕微鏡像を得ようとするもので、電子顕微鏡で問題となる色収差や、機械的に複雑なレンズ系による分解能低下の限界を超える顕微法を可能にするものである。 具体的にはSi(001)面上のホモエピタキシー成長を例にとり、毎秒1原子層(1ML/s)成長する場合について、0.1秒に1枚の回折図形の観測から実空間表面結晶構造(表面モフォロジー)を0.1秒以下で得ることを目標とした。このため、結晶成長中のある時刻の表面モフォロジーを得る際に、その直前の時刻ですでに得た表面モフォロジーを位相回復法の初期値とする方法を開発した。この方法によって、位相回復の処理時間を0.1秒以下にでき、遅延時間が0.1 秒程度で “その場”観察することが可能になった。空間分解能はある程度犠牲にせざるをえなかったが、成長中の島の形態変化を観察するのに必要とされる20nm程度の分解能を確保できている。 この研究結果は、e-Journal of Surface Science and Nanotechnology(2018年)に発表した。また、日本物理学会および8th International Symposium on Surface Science (2017年)において発表した。
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