研究課題/領域番号 |
25400322
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 教授 (40324321)
|
研究分担者 |
松本 正茂 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20281058)
楠瀬 博明 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (00292201)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 量子ドット / 近藤効果 / スピン電荷制御 / 誘起電気分極 / マルチフェロイックス / アハラノフ・ボーム効果 |
研究実績の概要 |
2年目の本年度は、前年度に実施した三角形三重量子ドット系における近藤効果による誘起電気分極の研究成果をさらに発展させ、主に磁場による軌道効果を調べた。特に、誘起電気分極のアハラノフ・ボーム(AB)型振動パターンの形状変化がドットと金属リードとの接合の強さに敏感であり、量子ドット系における近藤効果の新たな側面を明らかにした。 数値繰り込み群法による定量的な解析の結果、この多様な形状変化は、基底状態の波動関数について異なる2つの対称性の混合に注目することによって統一的に理解される。具体的には、三角形の鏡映操作に関する波動関数の偶奇パリティの混合であり、ドットーリード接合によって混合の度合いを精密に制御することが可能である。特に、弱い接合の場合、誘起電気分極の振動パターンがスパイク状になり、将来の実験での観測が期待される。以上の研究成果は学術論文として発表し、また日本物理学会および強相関電子系国際会議(SCES2014)で報告した。 上述の研究成果に加え、超伝導体リードの場合も調べ、超伝導ギャップの効果によって誘起電気分極の出現が抑制されることを示した。これはリードと接合する量子ドット上に形成される近藤一重項が誘起電気分極に主要な役割を担っていることを示す結果であり、次年度に学術論文として報告する予定である。 最近、走査トンネル顕微鏡(STM)による量子ドットの幾何学的配置の精密操作、さらに電荷密度分布のSTMイメージによる波動関数の対称性の同定など実験の進展が顕著であり、近藤効果の量子ドット系への応用が現実的なものになっている。本研究成果はその一助となることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三角形三重量子ドット系における近藤効果については集中的な研究の結果、様々な側面を明らかにすることができた。他方、三角形を含めた多重量子ドット系について理論模型を拡張する予定であったが、前年度に引き続き磁場効果の研究を優先した。これは、三角形三重量子ドット系の精密制御に関する実験的研究が国内外で進展しているため、三角形の場合の研究が急務であると判断したためである。この研究計画の変更は当初計画を大幅に変えるものではなく、近藤効果による誘起電気分極の発現機構をより広い角度から明らかにしたという点で、研究は順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
この2年間の研究によって三角形三重量子ドット系の近藤効果の誘起電気分極の起源については、強相関の場合を重点的に調べ、また弱相関の場合も含めてその詳細を明らかにした。今後は、当初計画どおり、三角形よりもさらに複雑な多重量子ドット系に理論を拡張する。また、新しい試みとして、有機分子や金属錯体とリードとの接合系も視野に入れ、幅広くナノ・メゾ系を探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗状況を踏まえた結果、分担研究者との研究打ち合わせのための旅費について、今年度分の一部を次年度に使用することにしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究成果は概ね計画どおりに得られているので、これまでの研究成果のまとめと今後の研究課題の検討を行うために、研究分担者との研究打ち合わせの旅費としての使用を予定している。
|