【最終年度】半導体薄膜中の励起子分子を介した量子もつれ光子対生成を理論的に調べるため、その中間状態である励起子と光の結合状態を求めた。バルクの励起子-光結合状態は励起子ポラリトンとしてよく知られているが、薄膜の場合はこれまで系統的に調べた例がほとんどなかった。そこで、励起子-光結合状態を「漏れモード」(結合状態が薄膜の外まで広がっている)と「表面モード」(結合状態が薄膜の表面で局在している)に分類し、これらの固有状態と固有エネルギーを計算した。さらに、「漏れモード」の固有状態から、薄膜中の励起子のフォトルミネッセンスが計算できることを示した。この結合状態を用いると、励起子分子からの量子もつれ光子対の生成効率だけでなく、励起子分子の輻射寿命も計算することができる。ここでは、薄膜が十分薄いとして最低励起子準位のみを考慮して結合状態を求めたが、複数励起子準位に拡張すれば、任意の膜厚で結合状態を求めることができる。 【研究期間全体】 ・共振器-量子ドット系からの量子もつれ光子対生成において、パルス光を入射した場合に高速かつ高効率な量子もつれ光子対を生成するための条件を明らかにした。 ・共振器-薄膜系からの量子もつれ光子対生成を調べるにあたり、3次元の励起子強束縛模型で記述される励起子分子のエネルギーと波動関数を非常に高速に計算する方法を開発した。また、励起子分子は2励起ドレスト状態を介して量子もつれ光子対になることを見出し、ドレスト状態に特有な量子もつれ光子対の放射角度が存在することを明らかにした。 ・半導体ナノギャップ共振器を提案し、明瞭かつ巨大な真空ラビ分裂があらわれることを、独自に開発した電磁界解析シミュレーションで示した。また、このような半導体ナノギャップ構造に最適な構造を定性的に調べた。このような巨大なラビ分裂のある系を用いると、純度の高いもつれ光子対が生成できる。
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