研究課題/領域番号 |
25400326
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 慎一郎 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00227141)
|
研究分担者 |
丸山 隆浩 名城大学, 理工学部, 教授 (30282338)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 電子格子相互作用 / カーボンナノマテリアル / 角度分解光電子分光 / グラファイト |
研究概要 |
本研究では、角度分解光電子分光を用いて、電子格子相互作用によって散乱された電子を直接観察し、電子格子相互作用の素過程についての知見を得ることを目的としている。本年は面内の方位がランダムであるHOPGグラファイトにおいて、フェルミレベル近傍(K点)からΓ点付近に電子格子相互作用によって散乱した電子を直接観測することに成功した。フェルミレベルのエネルギーの電子が散乱され、エネルギー保存則によってフォノンのエネルギーに対応した分だけシフトした結合エネルギー位置にエッジ構造が観測された。さらに、グラファイトはK―H点にフェルミレベルの電子が集中していることから、観測した電子の運動量からフォノンの運動量を求めることができ、フォノンの分散を観測できた。光エネルギーを変えると観測されるフォノン変化することから、観測しているのが自由電子バンド間の散乱ではなく、固体中のバンド間の散乱であることが明確である。さらに、第一原理計算パッケージによる非占有バンド構造の計算と群論を用いた選択則の検討を合わせ、英Nature社が発行するScientific Reportsで論文を出版し、プレスリリースも行った。さらに本年は引き続き、単結晶グラファイトにおいても同様の実験を行い、多結晶では難しかったフォノンの詳しい分散関係や、電子格子相互作用の運動量依存性、偏光依存性などについても調べ、その結果は国際学会や国内学会で発表した。本研究は、固体物性において最も重要な相互作用である電子格子相互作用の素過程を直接的な形で観測できる手法を提案し、実際に世界で初めて観測できたものである。また、派生する研究として、グラファイトの電子構造の第一原理計算に基づき、角度積分型光電子分光の解析法を新たに提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HOPGグラファイトにおいて、当初の目的通り、角度分解光電子分光を用いて電子格子相互作用によって散乱された電子を直接観測することに成功した。成果は国際的な一流誌(Scientific Reports)で出版され、プレスリリースも行った。さらに、単結晶グラファイトにおいても同様の実験に成功し、フォノンの分散、電子格子散乱強度の観測、偏光依存性の観測などを行うことができ、現在論文を準備中である。すなわち、単なる端緒的な成功にとどまらず、この手法を用いて電子格子相互作用の物理の本質に迫る可能性を示すことができたといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
以下のような研究計画を考えている 1)単層・多層グラフェンにおける電子格子相互作用について、角度分解光電子分光を用いた同様の研究を行う。グラフェンはその新規な物性が多くの研究者の注目を集めており、電子格子相互作用についても理論的・実験的な研究が精力的になされているが、本手法のようにその素過程を直接観察できるものはない。グラフェンで同様の手法が使えるかどうかは実験してみなければ分からないが、成功の暁には本分野に大きなインパクトを与えると期待できる。 2)電子格子散乱の素過程を観察する手段として、角度分解光電子分光だけではなく、HREELS(高分解能電子エネルギー損失分光)法を用いる。この場合、グラファイトやグラフェンの非占有状態の運動量とエネルギーに合わせて入射電子のエネルギーと角度を調整し、共鳴的にフォノンによって散乱された電子のエネルギーを観察することになる。このような励起過程は、固体表面に吸着した分子のHREELS測定において「共鳴散乱」として知られたメカニズムと同様であるが、固体では運動量保存則が成り立っていること、つまり角度にも共鳴条件が成立していることが決定的な違いである。HREELSにおいて未だ発見されていない励起メカニズムを観測することができれば、やはり大きなインパクトがあると期待できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
購入物品の値段に間違いがあったため、少額の残額が生じてしまった 少額であるため、本来の計画に従うものとする
|