研究実績の概要 |
チタン酸バリウム(BaTiO3)は物理・応用ともに広く研究され,最も一般的な強誘電体である.BaTiO3はペロブスカイト酸化物ABO3型結晶で,単位胞の頂点にBa2+イオンが位置し,八面体の頂点を構成する酸素原子の中心にTi4+イオンがある.この物質の誘電率は,多くの電荷がTi-O間の共有結合を通して揺らぐことができるため、室温で5000と通常の物質よりもかなり大きい.共有結合性を変化させるために陽イオンであるBaやTiを他のイオンで置き換えた研究は数多くある。しかし,Oサイトを電気陰性度の最も大きいフッ素(F)で置換し、さらに電気的中性条件を満足させるためBaをKで置換した系で、系統的にチタン酸バリウムの物性を調べ、共有結合性と強誘電性の関係を論じた研究はほとんど無い。 KF添加チタン酸バリウム(Ba1-xKxTiO3-xFx)の組成をx=0から0.12付近まで系統立てて変化させ単結晶を育成した。特に、誘電率が最も大きくなるx=0.1付近に注目し、その大型単結晶の育成法を開発した。育成した良質単結晶を用いて、誘電率、圧電率、自発分極の温度依存や直流電場印加下における誘電率の温度依存を精密に測定した。 チタン酸バリウムの強誘電相転移温度TcはKFの添加量xとともに低下し、x=0.1付近で1次転移から2次転移に移行する、すなわち三重臨界点(Tri-Critical Point, TCP)が存在する。このことが、誘電率や自発分極の温度依存に影響を与えている。直流電場印加下においても1次転移から2次転移に移行する臨界終点(Critical End Point, CEP)の存在が知られており、今回、x=0.023、0.057、0.083の単結晶についても詳しく調べた。臨界電圧(Ec)はx=0では10kV/cmであったものが、xの増加とともに低下していき、x=0.1ではEc=0となる。すなわち、CEPの終端がTCPとなる。
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