研究課題/領域番号 |
25400330
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
萱沼 洋輔 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 特任教授 (80124569)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ブロッホ状態 / 位相干渉効果 / 外場駆動 / 位相ロック2連パルス / コヒーレント制御 / 冷却原子 / バルク固体 |
研究概要 |
(1)固体中のブロッホ電子とこれをシミュレートした光学格子中の冷却原子を対象として、そのコヒーレントダイナミクスの理論的研究を行った。ブロッホ状態にある冷却原子のモデルにおいて、二つのブロッホバンドがギャップを隔てて存在するとき、直流外場と交流外場を印可してギャップ間のZenerトンネリングを制御しうることを示した。量子波束が枝分かれして行く増殖モードと、Zenerトンネリングが抑制されるバンドギャップ消失モードとの切り替えができることを数値計算で確認し、これが2重のLandau-Zener干渉効果によることを解析的に明らかにした。 (2)固体パラ水素結晶のバイブロン(ブロッホ状態にある分子内励起のフレンケル励起子状態)を、位相ロックした2連パルスによりコヒーレント制御する実験に対し、その理論的解析を行った。2連パルスの時間間隔を制御することで、近似的に2準位系とみなしたバイブロンの波動関数を、ブロッホ球上で完全に操作できる。2連パルスの時間間隔を、500ps近傍でわずか4fs微調整することで、完全な建設的干渉から破壊的干渉まで連続的にスキャンできることを示した。 (3)室温におけるGaAs結晶およびBi結晶に対して、位相ロックした2連パルスを時間間隔500アト秒の精度で照射し、このポンプ光により誘起されたコヒーレントフォノンをプローブ光の反射率変調として観測した。フォノンのコヒーレンスに起因する150fs周期の時間軸での干渉パタンに、電子状態のコヒーレンスに起因する2.7fs周期の干渉パタンが重なって観測された。位相緩和効果を取り込んだ確率過程モデルにより干渉パタンを解析した結果、GaAs結晶に対しては約50fsの位相保持時間が求められた。Biではほとんど即時に位相干渉が失われることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の前半においては、振動的外場による冷却原子系のコヒーレント操作とくにBloch-Zener振動の制御理論をまとめた。これは最初の研究計画では平成26年度の計画の一部としたものであるが、世界的にこの問題への興味が増しているので、一年前倒しして計算を実行し論文発表した。 その後、バルク固体中ブロッホ電子の2連光パルスによるコヒーレント操作の実験で新展開があったので、その理論解析を行った。これはフォノン・ブロッホ電子結合系のコヒーレンスを観測する新しいタイプの実験であり、最初の研究計画には記載されていない問題であるが、バルク固体中でのブロッホ電子のコヒーレンスとその破れを含む興味深い問題であり、緊急に理論解析を要したためである。このように多少の研究実施順序の入れ替えと変更はあったが、計画はおおむね順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の前半に、研究計画書に平成25年度の計画として記載したブロッホ電子の振動外場中での散乱問題を解決して論文発表まで進める予定である。これは予備的研究は実行済みである。 さらに、バルク固体中のフォノン・ブロッホ電子結合系のコヒーレント制御を研究目標につけ加える。これは実験の新展開により新たに見つかった課題である。そのためにこの問題の実験研究を行っている研究者一名を新たに研究分担者に加えることを計画している。 また、研究計画書に記載したように、バルク固体に対し可視域およびテラヘルツ波領域の強い光パルスが照射されたときの光誘起構造相転移や強励起電子系のダイナミクスの初期過程に、動的局在のようなコヒーレント効果が重要な役割を果たしている可能性があると考えられる。そこで、この分野の実験研究者とも協力して理論研究を開始する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた外国出張を1件取りやめたため旅費があまったことが主たる理由である。 数値計算用パーソナルコンピュータまたはワークステーション1台購入、レーザープリンタ1台購入、成果発表のための外国出張(2回)、国内出張10回程度、数値計算用ソフトウエア、論文作成用ソフトウエアその他消耗品の購入にあてる予定である。
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