研究課題
単層カーボンナノチューブ(SWNT)では、赤外光領域に幅の広い吸収帯が半導体、金属SWNT共に現われるが、この赤外吸収帯の起源は明らかになっていなかった。本研究では、この起源を明らかにするために、半導体および金属SWNT薄膜に電子線を照射し、それが赤外吸収スペクトルに与える影響を調べた。微少領域の赤外光領域の吸収スペクトルをSPring-8のBL43IRの顕微赤外分光測定用ビームラインで測定した。また、関連物質である酸化グラフェンの光学応答も調べた。電子線照射によって、半導体、金属SWNT共に、欠陥に起因する1350cm-1のラマンピーク(D band)が増加する。この照射領域の吸収スペクトルを測定したところ、赤外吸収帯は、強度を減少しつつ、ピークは高エネルギー側にシフトした。欠陥が増加したにもかかわらず、赤外吸収帯の強度が減少したことから,この吸収帯は欠陥準位によるものではないことが分かる。欠陥のないSWNTに現われる1590cm-1のラマンピーク(G band)とD bandとの強度比(G/D比)と赤外吸収帯のピークエネルギーとの関係を調べると、ピークエネルギーはG/D比の逆数に比例することが分かった。このことはSWNTに入った欠陥によって、有効的なSWNTの長さが短くなり、その結果、プラズモン共鳴エネルギーが高エネルギー側にシフトしたと考えることが出来る。また、この赤外吸収帯はほとんど温度に依存しないことが分かった。その結果を、電子の平均自由行程の温度変化と長さ方向の閉じ込め効果を考慮して定量的に考察し、プラズモン共鳴で実験結果を説明することが出来ることがわかった。また、酸化グラフェンについて三次の非線形光学応答を調べたところ、欠陥のない炭素のsp2領域のサイズに応じて非線形性が変化することが分かった。
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Phys. Rev. B
巻: 93 ページ: 195409-1 -5
10.1103/PhysRevB.93.195409