研究課題/領域番号 |
25400332
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
中村 新男 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, フェロー (50159068)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 金属ナノ粒子 / 光学応答 / 励起エネルギー移動 / 電荷移動 / 光起電力効果 |
研究実績の概要 |
1)高分子/単層カーボンナノチューブ複合系の励起エネルギー移動 単層ナノチューブの分離・選別と孤立分散のために用いられている高分子とナノチューブ間の励起エネルギー移動について調べた。高分子でラップされた半導体ナノチューブの励起発光スペクトルにおいて、隣接したナノチューブ間の励起エネルギー移動を示す励起・発光線に加えて、高分子の吸収に対応したエネルギーでナノチューブの励起子発光が観測された。さらに、ナノチューブをラップしている高分子の発光の減衰時定数は、薄膜状の高分子のそれに比べて2桁ほど短くなることから、高分子に励起された電子・正孔対がナノチューブにエネルギー移動することが明らかになった。このときのエネルギー移動レートは、ナノチューブに内包されたクアテリレン分子のエネルギー移動レートとほぼ同じ値になることがわかった。高分子のHOMO-LUMOギャップと本実験に用いたナノチューブのバンドエネルギーの関係を考慮して、励起エネルギー移動プロセスを考察した。 2)分子内包ナノチューブの光起電力効果 直径に依存したバンドギャップをもつナノチューブと分子を複合化した系では,バンドギャップとHOMO-LUMOギャップの関係によって励起エネルギー移動、または電荷移動が起こる。光電流スペクトルを測定するための装置系を整備し、分子内包ナノチューブの微弱な光電流信号の検出が可能になった。光伝導励起スペクトルの測定により、ナノチューブの高いバンドの光励起によるキャリヤ生成に加えて、内包分子に起因する光キャリヤ生成を示唆する結果が得られた。これらの結果から電荷移動とエネルギー移動の関係について考察することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・ナノチューブとそれに巻き付いた高分子から成る複合系における励起エネルギー移動を、スペクトルおよびフェムト秒領域の発光時間特性から明らかにすることができた。ドナーとアクセプター間の距離をほぼ正確に知ることができるので、励起エネルギー移動のメカニズムの考察が可能であり、このような複合系の総合的理解に繋がる成果が得られている。 ・ナノチューブを反応容器として利用して、コロネンなどの分子とその重合体を内包させたナノチューブを合成することが、名古屋大学、首都大学の協力により可能になった。それらの試料の光学特性の評価と光起電力効果の議論に研究に進めている。 ・金属ナノ粒子とナノチューブの複合系の光電場増強効果を調べるために、金ナノ粒子、金ナノロッドの電場分布の解析を行う準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
・分子内包複合系の光伝導励起スペクトルの詳細な測定およびフェムト秒領域のダイナミクス測定を行うことによって、定量的な解析ができるようにする。分子の種類と励起エネルギー移動/電荷移動過程の関係を調べることにより、光励起エネルギーの緩和過程の統一的理解へ向けた考察を行う。 ・高分子(重合体)をラッピング、または内包化したナノチューブ複合系のデータをまとめ、その結果を比較することによって、励起エネルギー移動または電荷移動の定量的な特性とメカニズムの解明を行う。 ・複合構造の合成に成功している系に対する実験を集中的に進めることによって、最終年度における研究のまとめに取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に使用予定の薬品と実験器具に対する経費を確保していたが、既存の薬品、器具で間に合ったために、その予定経費相当が未使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に実施する研究において必要となる薬品・材料代、実験器具のために使用する。
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