研究課題
基盤研究(C)
本課題では、ここ数年の間に著しく技術が進歩した放射光X線を用いた共鳴非弾性散乱法(RIXS)により、銅酸化物高温超伝導体を対象として、スピン、及び、電荷の動的相関、励起状態を観測し、電荷ドープされたモット絶縁体の電子の運動状態を研究する。適切な吸収端、偏光条件を利用した実験を行うことで、電子の運動状態を記述する基本的物理量であるスピン・電荷の動的相関関数をブリルアンゾーン全域に渡って観測する。その系統的なドーピング依存性を調べることにより、モット絶縁体がキャリアドープにより金属化していく過程での、電子ダイナミクスの変遷を明らかにすることを目的とする。まず、電子ドープ系については、Nd2-xCeCuO4のRIXS実験から以下の成果が得られた。銅のL3 吸収端で観測された100 meV 以上にある高エネルギースピン励起は、ドープが進むにつれて幅を広げながらより高エネルギーにシフトすることがわかった。この結果は、ドーピングをしてもほとんど分散が変化せず、母物質の局在スピンの特徴が残存するホールドープ系とは対照的である。さらに、電子ドープした試料のL3 吸収端のRIXSスペクトルでは、Γ点近くで磁気励起よりも高エネルギー側に励起強度が観測された。その運動量依存性は、K吸収端で観測される電荷励起(上部ハバードバンドでのバンド内励起)の分散と滑らかにつながっていることから同じ起源の電荷励起と考えられ、K吸収端では観測が難しかったΓ点近くの電荷励起の素性も明らかにすることができた。一方、ホールドープ系についてはオーバードープ域にあるホールドープ型銅酸化物La2-xSrxCuO4 (x = 0.25, 0.30)について銅のL3吸収端でのRIXS実験をESRFで行った。現在、その解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
電子ドープ系については、L3吸収端とK吸収端でのRIXS実験データを詳細に解析し、その結果を論文に取りまとめて発表した。その内容は研究実績の概要に記した通りである。K吸収端の実験では、分光アナライザーの改良によりより高いエネルギー分解能(約100 meV)が得られるようになっており、それを利用した測定もほぼ終えている。ホールドープ系については、L3吸収端の実験が順調に進み、データの解析を進めているところである。
電子ドープ系では高エネルギー分解能で得られたK吸収端のデータの解析を進める。ホールドープ系についてはL3吸収端の解析を進める一方、高エネルギー分解能でのK吸収端での実験を行う。以上の結果から、電子ドープとホールドープの類似点や相違点を明らかにし、銅酸化物超伝導体におけるスピン・電荷励起の全体像を解明する。また、ホールドープ系のアンダードープ領域に見られる電荷秩序にも着目し、電荷秩序と関係した励起の探索も進めて行く。
L3吸収端の測定試料をホルダーに固定する際に使用する接着剤、および、高温槽の購入を計画していたが、実験を行ったESRFのビームラインに常設しているものを利用することできたため、その分に相当する費用が差額として残った。論文の出版にあわせたプレス発表のための出張など、旅費が予定より多く必要となっており、差額の一部はそのために使用する。所属機関からの研究費が大幅に減額され続けているため、本研究課題の遂行に不可欠な実験装置の維持管理費や消耗品の購入代にも充当することを予定している。
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