研究課題
本課題では、ここ数年の間に著しく技術が進歩した放射光X線を用いた共鳴非弾性散乱法(RIXS)により、銅酸化物高温超伝導体を対象として、スピン、及び、電荷の動的相関、励起状態を観測し、電荷ドープされたモット絶縁体の電子の運動状態を研究する。適切な吸収端、偏光条件を利用した実験を行うことで、電子の運動状態を記述する基本的物理量であるスピン・電荷の動的相関関数をブリルアンゾーン全域に渡って観測する。その系統的なドーピング依存性を調べることにより、モット絶縁体がキャリアドープにより金属化していく過程での、電子ダイナミクスの変遷を明らかにすることを目的とする。ホールドープ系については2013年度に実験を行ったオーバードープLa2-xSrxCuO4の銅L3吸収端のRIXSの解析を進めた。ホールドープ系の高エネルギースピン励起は、これまでドーピングしてもほとんど分散が変化しないという報告がいくつかなされていたが、この特徴は運動量(pi,0)方向の特徴であり、(pi,pi)方向についてはゾーン端でドーピングによりソフト化していることがわかった。一方、電子ドープ系については、Nd2-xCexCuO4について銅K吸収端のRIXSによる電荷励起の測定を行った。分解能向上により低エネルギー側まで観測が可能になったことで、低運動量側ではバンド内励起のピーク位置が電子ドープが進むにつれて高エネルギー側にシフトしていることが確認でき、最近行った銅L3吸収端のRIXSでも捉えられていた特徴を銅K吸収端のRIXSでも確認することができた。今後、理論計算で得られる電荷の動的相関関数との比較を行うことで、銅酸化物超伝導体の電子ダイナミクスの理解を進めて行きたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で述べたホールドープ系の銅L吸収端のRIXSの成果は、現在論文として投稿中である。銅K吸収端については、高エネルギー分解能での実験を進めているところである。電子ドープ系については、銅L吸収端のRIXSを中心にまとめた論文が2014年4月に発表できた。その後、2014年度には銅K吸収端での測定を行うことができ、現在、解析を進めている。以上のことから、概ね、順調に成果を達成できていると考えている。
ホールドープ系については、銅K吸収端の測定を進めると同時に、電荷励起の観測を目的として酸素K吸収端の実験を計画している。昨年度、別の目的で行ったLa2-xSrxCuO4の酸素K吸収端RIXSの実験で、電荷励起を観測できる可能性を得たため、より系統的なドーピング、運動量依存性の測定を行う。今年度は本科研費の最終年度であるので、後半は成果とりまとめ、論文作成を中心に行う予定である。
できれば2014年度中に行いたいとしていた海外放射光施設(ESRF)でのビームタイムが2015年4月となったため、そのための旅費を2015年度に繰り越した。
2015年4月の海外放射光施設(ESRF)での実験への旅費として使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
日本結晶学会誌
巻: 57 ページ: 20-26
10.5940/jcrsj.57.20
日本中性子科学会誌「波紋」
巻: 25 ページ: 18-21
Isotope News
巻: 728 ページ: 10-13