研究課題
本年度は、まず、主にクロコン酸結晶の多層性について考察を行った。特に、2層、3層の場合について、前年同様の断熱的ポテンシャル面解析を行い,多層性があっても励起緩和が主に一層に限定して起きるので、特にこれまでの結果に定性的な変化が現れないことを確認した。次に、これまでの水素原子の動かし方、すなわち、中心クロコン酸分子の両側の水素を同時に動かす、は、励起電子正孔対の両方が緩和過程で分子間遷移をすることを想定していた。しかしながら、バンド計算の分散評価により、ホールの分子間飛び移積分が小さいことが分かったので、励起電子だけ動く、つまり、片側の水素だけが順次動いていくモデルがより現実的という結論を得た。また、それに応じて、対応するポテンシャル面も計算し直した。電気分極の微視的起源を考えるという視点では、擬2次元分子性結晶、α-(BEDT-TTF)2I3 の分極について第一原理計算をいて解析を行った。その結果、スピン分極を伴う解と伴わない解で得られる分極ベクトルの方向と絶対値が定性的に異なるという結果を得た。まず、前者については光学応答で得られている結果と定性的に一致する。一方、後者については、いわゆるディラック電子系と密接な関係にあり、その分極ベクトルがディラックコーン周りの特異性と密接な関係があることを見出し,通常生じる収束の困難を解決する処方箋を与えることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
クロコン酸結晶の励起緩和の解析については、予定していた多層性を確かに扱うことが出来、さらにその上で、電子や正孔の分子間移動と言う観点から、より現実的なモデルにブラッシュ・アップすることが出来た。2次元分子性強誘電体については、予想もしていなかったディラック電子系との関係性が見出され、さらにその上、そこで通常生じる収束の困難を解決することが出来たため。
水素結合型強誘電体の光緩和については、最近、類似の物質、[H-dppz][HCA] においても大きな光誘起分極変化が観測されているので、それについても理論解析を始める。2次元分子性強誘電体の系については、用いる汎関数を連続的に変化させるなどのより詳しい解析を行い、その物理的意味をより深く理解する。
旅費の支出が予定より抑えられたため。
研究が加速し期間内に十分な成果が得られるように適宜判断を行い、使用する予定である。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 201571-1-10
10.1038/srep20571