研究実績の概要 |
本計画では、1.クロコン酸結晶における光誘起強誘電消失、および、2.分子性結晶α-(BEDT-TTF)2I3の強誘電分極決定について研究を行った。
1については、クラスターモデルを用いた量子化学的手法で扱い、主としてプロトン自由度に着目して光励起緩和経路の解析を行った。まず、主要光学遷移(~3,5 eV)に励起を行った場合に可能な最大分極反転分子数を基底状態ポテンシャル面形状に基づき評価したところ、約10分子程度の分極反転がエネルギー的に可能なことが分かり、それは実験で得られている数値(15分子)と比較的近く妥当である。次に、観測されている「A. 超高速の緩和成分(時定数 1 ps以内)」,「B. 高速な緩和成分(時定数 2 ps程度)」、「C. 遅い緩和成分(時定数 10 ps以上)」の実体について考察を行った。 その結果、Bについては、ポテンシャル面上で途中で励起状態から基底状態に乗り移り障壁無く一様な強誘電状態に戻る成分、Cについては、励起状態のまま成長しプロトンとπ電子間のクーロン引力由来の障壁にトラップされた成分と考えられることが分かった。最後に、Aの由来については本計算からは対応する候補が見つからなかった。おそらくは、本計算で考慮していないプロトンの量子性に関係した成分と考えられ,今後の研究の課題としたい。
2については、スピン分極の有る解と無い解の両方を用いて評価を行った。その結果、前者が実験により近い分極の方向を与えることが分かった。一方、後者においてはいわゆるディラック電子系の特徴が現れ、その場合の分極値決定に新しい技巧を考案し、実際に精度良く値を決めることに成功した。また、ハイブリッド型密度汎関数のハートリーフォック成分を断熱パラメータにする分極計算を検討した。
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