研究概要 |
本研究では、パルスマグネットを用いた超強磁場中における中性子回折実験システムの開発を第一の目的とする。本測定システムは、小型パルスマグネットを内蔵したインサートおよび磁場発生用小型電源ユニットを既存の中性子施設に設置されている分光器と組み合わせて測定を行うものである。電源ユニットはこれまでに開発してきたものを使用し、本課題では中性子透明材料を用いた新型インサートおよびマグネットの開発に集中する。現行のシステムにおいて、とくにインサートが標準のオレンジクリオに挿入可能であること、マグネットを液体窒素で冷却するといった点は、装置の汎用性や実験効率の点において重要な部分である。この基本設計を踏襲した広回折角を有する新型インサートの開発を目指す。さらに、この手法を用いて、マルチフェロイック物質をはじめとしたフラストレート磁性体等において見いだされる様々な磁場誘起相の磁気構造を調べ、その新奇な磁気相出現の起源解明を目指す。 本年度は先ず、マグネット本体の性能を低下させることなく広回折角化を目指すため、マグネット周辺部および試料ホルダーのSUS,FRP,BNなどを、アルミニウム合金、アルミナ、単結晶サファイア、石英といった中性子に対して透明な材料で設計し、磁場発生に対する耐久性の試験を行った。 一方で、MnWO4,BiFeO3,URu2Si2等のマルチフェロイック物質や磁化プラトーを示すフラストレート磁性体および強相関系物質において、現有のシステムを用いて強磁場磁気回折実験を行った。これにより、30テスラ領域で現れる新規な磁気相解明に先鞭をつけることができた。これらの中性子散乱実験は中性子グループの協力のもと、国内(J-PARC)および国外(ILL(フランス), SNS(米国) の中性子施設において行った。測定用の単結晶試料の提供は、試料作製グループとの共同研究による。
|