研究課題
基盤研究(C)
強磁性絶縁体(FI)と非磁性金属(N)からなる2層のナノ構造膜における磁気抵抗効果の理論的研究を行った。非磁性金属膜に電流を流すと、スピンホール効果により非磁性金属膜にスピン流とスピン蓄積が生じ、その一部は接合界面を通して強磁性絶縁体層に吸収される。強磁性絶縁体層の磁化の向きを変えると、吸収されるスピンの量が変化し、非磁性金属膜内のスピン流が変調を受ける。このスピン流の変調は、逆スピンホール効果により、印加した電流の大きさを変調する。この現象はスピンホール効果と逆スピンホール効果が同時に作用することにより発現する新しいタイプの磁気抵抗効果であり、スピンホール磁気抵抗効果(SMR)と命名した。本年度は、スピンホール磁気抵抗効果の定式化を行い、任意の磁化方向に対して磁気抵抗を計算する理論式を導出した。その結果、スピンホール磁気抵抗効果は、FI層の磁化とN層のスピン蓄積の相対的向きに依存することが明らかになった。スピン蓄積の方向は電流と垂直な横方向であるので、電流と磁化の相対的向きに依存する従来の異方的磁気抵抗効果(AMR)と本質的に異なった現象である。例えば、電流方向と垂直な面内で磁化を回転したとき、AMRは角度依存性を示さないが、SMRは正弦関数の依存性を示す。また、スピン蓄積の方向と垂直な面内で磁化の向きを変えた場合は上記と逆の角度依存性を示す。これらの特徴的な磁気抵抗の振る舞いは、強磁性絶縁体(YIG)と非磁性金属(Pt)を用いた2層膜接合において実験的に観測された。SMRの実験結果を解析することにより、界面スピン流や界面スピンコンダクタンスの大きさ、非磁性金属のスピンホール効果の強さなど基本的物理量を評価する手法が確立された。
2: おおむね順調に進展している
25年度中に、磁性絶縁体とスピン軌道相互作用の強い金属からなる2層のナノ構造膜において、スピンホール効果を起源とする新しい磁気抵抗効果(スピンホール磁気抵抗効果)の理論を構築することができたので、おおむね順調に進展している。
強磁性金属(NiFe)、非磁性金属(Ag)、強磁性絶縁体(YIG)からなる非局所スピン注入素子を用いて、非局所スピン注入磁化反転を調べる。スピン注入側のNiFe電極とAg細線 の間にMgOトンネル障壁を挿入することによりスピン注入効率が格段に向上することが理論的・実験的に実証されている。Ag 細線上に微小なYIGディスクを置くと、Ag細線に蓄積されたスピンがYIG に吸収されて、スピン流がYIGに流入し、YIGの磁化に大きなスピントルクが働く可能性がある。磁性絶縁体に吸収されるスピン流の大きさが、界面スピンコンダクタンスやAg 電極のスピン抵抗にどの様に依存するかを明らかにする。YIG などのギルバート緩和定数が小さい強磁性体絶縁体に対するスピン注入磁化反転の条件を調べ、磁化反転の閾値電流の低減化が可能であることを示す。新たな研究課題として、強磁性体絶縁体と非磁性金属を組み合わせた2層ナノ構造膜や多層ナノ構造膜を用いて、交流電流の印加によって引き起こされる磁化のダイナミックス(スピンポンピング、磁化緩和など)、およびスピン注入磁気共鳴を利用したスピントルク・ダイオード効果を調べる。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額である。次年度使用額は、平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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