研究課題
本研究は、強磁性絶縁体を用いたナノ構造複合膜において、非平衡スピン流とスピンホール効果に起因した新規な磁気抵抗効果を提案し、そのスピン伝導理論を構築した。この磁気抵抗効果は国内外で実験的に検証され、「スピンホール磁気抵抗効果」と呼ばれている。最終年度は、強磁性金属を用いたナノ構造複合膜への拡張を行った。強磁性金属とスピン軌道相互作用の強い金属からなるナノ構造2層膜において、大きなスピンホール磁気抵抗効果が起こることを理論的に明らかにした。電気を通す強磁性金属を用いると、スピンホール効果によって非磁性金属層に生じたスピン流は、強磁性金属の磁化の向きに依存して、横偏極成分のみならず縦偏極成分のスピン流が強磁性金属に吸収される。また、強磁性金属層に電流が流れることにより、強磁性金属にスピン依存ホール効果が生じて磁化の向きに依存した縦偏極成分のスピン流が生成され、強磁性金属層にもスピンホール磁気抵抗効果が生じる。このため、強磁性金属を用いた金属系2層膜のスピンホール磁気抵抗効果は、強磁性絶縁体を用いた絶縁体系2層膜と比べて異なった振舞いを示す。最終年度では、強磁性金属層のスピン依存ホール効果及び縦の界面スピン流の影響を解明し、金属系の2層膜で発現するスピンホール磁気抵抗の磁化の角度依存性や膜厚依存性を解析する理論を構築した。これにより、非磁性金属層のスピンホール角、強磁性金属層のスピン依存ホール角、スピン分極率を見積もることが可能になった。実験グループとの共同研究により、コバルト鉄ボロン(CoFeB)強磁性金属とタングステン(W)金属を用いた2層膜において、絶縁体系2層膜に比べて10倍ほど大きなスピンホール磁気抵抗効果が発現することを実験的に観測することに成功した。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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