研究課題/領域番号 |
25400338
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
五十嵐 潤一 茨城大学, 理学部, 名誉教授 (20127179)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 共鳴非弾性X線散乱 / 強相関電子系 / L吸収端 / スピン軌道相互作用 / 素励起 / 磁気励起 / エクシトン |
研究実績の概要 |
共鳴非弾性X線散乱(RIXS)を用いた強相関電子系における磁気励起の理論的研究を行い、以下の成果を得た。 スピン軌道相互作用の強いIr化合物において、Na2IrO3はKitaev模型と関連すると考えられ、その素励起が盛んに研究されている。多くの研究が局在電子描像に基づくものであるのに対して、本研究では、遍歴電子描像に基づき、Honeycomb格子を形成するIrイオン上の電子に対してtight-binding模型を構成し、ハートレーフォック近似を用いて基底状態を構成した。自然なパラメーター領域で、一電子エネルギー分散にギャップをもつ反強磁性絶縁体状態が得られた。反強磁性秩序はzigzag型が一番安定であるが、ネール型やstripy型の秩序状態とのエネルギー差は極端に小さいことが分かった。この基底状態において、一般化された動的密度―密度相関関数を乱雑位相近似に基づき計算した。電子正孔対励起から構成される連続スペクトルに加えて、多数の束縛状態が存在することが分かった。いくつかの束縛状態が50meV以下の励起エネルギーをもって見つかり、磁気励起に対応すると考えられる。それにくわえて、400meV以上の励起エネルギーをもった束縛状態が得られ、エクシトン励起に対応すると考えられる。磁気励起の結果は局在電子描像の結果とも対応しており、エクシトンの存在とあわせて、RIXS実験で得られているスペクトルとよく対応していて、本研究の手法の有効性を示すことができた。 動的密度―密度相関関数のスペクトルは直接RIXSスペクトルをあらわしているわけではないという点を考え、今後は、RIXSスペクトルの直接の計算がRIXS実験との比較のために望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において既に、Sr2IrO4に対するRIXSスペクトルの解析をおこない、素励起の構造を明らかにし、実験結果をよく説明することができた。その過程で、同じIr化合物で、二層構造を持つSr3Ir2O7や、Kitaev模型につながるNa2IrO3や、異方性の強いCaIrO3等のRIXSスペクトルを、同じ手法で解析し比較検討することは、素励起の特徴をより深く理解する上で、また、解析手法の有効性を示すうえでも必要であると考えるに至った。その研究がまだ計算途上にある。また、銅酸化物RIXSスペクトルの解析に関しては、局在電子系に対しては、長距離秩序の存在の影響を取り入れた手法が完成した。しかしながら、ドープ系を念頭においた遍歴電子系に対する解析を試みてきたが、超伝導長距秩序を取り入れた定式化に手間取り、数値計算が完了していない状態である。
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今後の研究の推進方策 |
1.ホールドープ系酸化物超伝導体を念頭に、ハバード模型を用いて、超伝導状態におけるRIXSスペクトルのKeldysh形式による定式化をすすめ、数値計算を行う。 2.これまでのNa2IrO3に対する動的密度ー密度相関関数の計算を一歩進めて、RIXSスペクトルを計算し、実験結果を解析する。 3.二重層系Sr3Ir2O3と異方性の強いCaIrO3のRIXSスペクトルの計算を局在及び遍歴電子描像に基づき行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が計画通りに進まず、予定していた成果発表のためのヨーロッパ放射光施設ESRFへの出張を取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
日本物理学会への参加のための旅費と、研究打合せのための放射光施設SPring-8への旅費に当てたいと考えている。
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