[A] 2016年度に行った研究は以下のとおり。 [A1] 温度勾配で誘起されるスピン波によるスピントルクの計算を、スピン緩和の微視的機構まで立ち入った微視的モデルを設定して行った。これは、スピン緩和により生じると思われる重要な寄与について曖昧さなく扱うことを目指したものである。実際、現象論的モデルに基づく従来の計算結果が変更を受けることを見出した。今後は、スピン軌道相互作用のある場合に計算を進める予定である。 [A2] ビスマスのように有効的にディラック方程式で記述される電子系のスピンホール効果を、従来調べられていた内因的寄与に加えて外因的寄与(不純物に依存する寄与)について調べた。 [A3] 反強磁性金属において、磁化ダイナミクスで誘起されるスピン起電力を、微視的モデルに基づき計算した。最近報告された現象論的議論による結果に、新しい項が付け加わることを見出した。スピン軌道相互作用のある場合については今後の課題である。 [B] 研究期間全体(2013-2016年度)を通じては、強磁性金属における電流誘起スピントルクに対するRashba型スピン軌道相互作用の効果を詳細に調べた。とくに、磁化が一様な場合だけでなく、磁化の空間変化(空間微分の1次)を含むトルクを計算した。また、温度勾配誘起のスピントルクについても解析を行った。予期しなかった成果としては、磁気双極子相互作用(広い意味のスピン軌道相互作用)に支配される強磁性スピン波が、電子の異常ホール効果を引き起こす新しい機構を見出した。さらに、光応答に対するRashbaスピン軌道相互作用と磁化の相乗効果を調べた。
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