研究課題/領域番号 |
25400341
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | SQUID / ESR / 縦磁化検出 / Cu(C4H4N2)(NO3)2 |
研究実績の概要 |
本研究は、縦磁化と横磁化で検出されるESRの比がスピン-格子緩和時間に比例することを利用し、SQUID磁束計を用いた縦磁化検出型ESR測定装置を横磁化のESRも同時観測できるよう改良することで強磁場下でスピン-格子緩和時間を測定する手法を開発し、量子スピン系に応用することを目的とする。開発上のポイントの一つはいかに共鳴時における縦磁化の変化を感度良く検出するかという点である。初年度に引き続き、まず感度の向上を行った。感度の向上にはライトパイプでの電磁波の減衰の低減が最も効果が高いと考えられる。そこでこれまで外径6φであったライトパイプを8.4φのものに変更し、それに合わせてスライドシール部分等の治具も変更した。その結果、およそ2倍の信号強度の増加が見られた。これはちょうど断面積の比に相当しており、試料への入射電磁波強度の減衰が当初の狙い通り低減されていると考えられる。この結果を得て、テスト試料として、Cu(C4H4N2)(NO3)2(以下ではCuPzNと略)の縦磁化検出によるESR測定を行った。また別途パルス強磁場ESR装置を用いて横磁化のESR測定も行った。CuPzNはCu2+を磁性イオンとする典型的なS = 1/2の一次元Heisenberg型反強磁性体として知られる物質である。測定の結果、前者では磁化率がピークを示す温度より低温側で磁化が増大する様なESR信号が得られるという非常に興味深い現象が観測された。一方、パルス強磁場ESR測定では対応するような異常な振る舞いは観測されなかった。同時測定ではないが、この様に縦磁化と横磁化で検出されるESRの振る舞いに大きな違いが観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおよそ予定通りの進展具合である。本研究を遂行する上での最大のポイントの一つは、いかに共鳴時における縦磁化の変化を感度良く検出するかという点であるが、ライトパイプの径を6φから8.4φに変更することで従来の2倍程度の感度向上を達成できた。この点は予定通りの進展である。またこの感度向上により、量子スピン系の縦磁化検出によるESR測定が可能かどうかを確かめるため、S = 1/2 の一次元Heisenberg 型反強磁性体CuPzNの測定を行ったところ、磁化率がピークを示す温度より低温側で磁化が増大するESR信号が得られるという非常に特異な振る舞いを観測した。本来、横磁化検出のESRが同時に観測できるように装置改良に着手しなければならないが、CuPzNの測定の結果、別途横磁化検出によるESR測定が必要と判断しパルス強磁場を用いたESR測定を行った。そして両者で全く振る舞いが異なることを確認した。これらの点は、予定通り進展していない部分と、全く予期していない方向への進展があった部分である。全てが事前の予定通りというわけではないが、縦磁化と横磁化検出の両ESRを比べることにより、量子スピン系のダイナミクスをより詳細に研究できるようするという大きな枠組みの中での進展という意味では、期待通りと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、以下の二つを予定している。一つは上記で得られた一次元Heisenberg型反強磁性体CuPzNの縦磁化と横磁化で検出されるESRの違いの起源を解明し、同時に、現状用いている縦磁化検出型ESRとパルス強磁場ESR装置の強度に関する装置定数を見積もり、ESRの強度比から本系の緩和時間を見積もることである。縦磁化と横磁化のESRの振る舞いが異なるということは、取りも直さず、その違いが見られた温度領域で緩和時間に大きな変化が出ていることに他ならない。もう一つは、予定通り縦磁化検出型ESR装置を改良し横磁化のESRを同時に観測できるようにすることである。同改良によって本系の縦磁化と横磁化で検出されるESRの振る舞いが異なっておれば、やはりその違いは本質的なものであるということになり、かつより直接的な緩和時間の見積もりも可能である。そのために次にポイントとなるのは、100~200 GHzの周波数の電磁波に対して、適度に反射と透過を可能とするミラーの設置である。基本的には、ライトパイプから横方向に電磁波を取り出せるようパイプ鉛直方向から45°の角度でミラーを設置する予定であるが、そのミラーに穴を開け、試料に電磁波を照射することも可能とする。その穴径の最適値を探り、最もバランスよく照射と反射の電磁波強度を保ち、横磁化検出型のESR測定が同時に出来るようにする。
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